働き方や価値観が多様化する現在、リーダーのあり方が問い直されている。そんな中、アップルやナイキ、アウディといったグローバル企業で導入されているのが「牧場研修」だ。世界のビジネスエリートは、なぜ自然に学ぶのか? そこで培われるリーダーシップやビジネススキルとは? 本連載は、各国の牧場研修に参加し、スタンフォード大学で斯界の世界的権威に学んだ小日向素子氏の著作『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(小日向素子著/あさ出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第5回は、牧場研修に参加して「センス・オブ・ワンダー」の獲得に成功した、ある起業家の事例を紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?
■第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?
■第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?(本稿)
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■他者に関心を移し、他者と呼応するリーダーシップ
リーダーである自分が部屋に入ると、場の空気が重くなったり、部下たちの様子が変化したりする・・・。そのように感じたことはありませんか?
心当たりがある方は、無意識のうちに周囲に不要なプレッシャーをかけ、相手を萎縮させている可能性があります。
以前、私が行っている牧場研修にいらしたDさんは、感覚が鋭く、頭脳明晰な起業家でしたが、部下との関係がうまくいっておらず悩んでいました。
「部下は指示どおりに動いてくれています。でも、自分の影響力が大きすぎる気がして・・・。本当は、部下が自ら考えて動く組織をつくりたいのです」
Dさんには、自我を抑え、相手に関心を移すワークをしていただくことにしました。「馬場の中に、リードでつながれていない裸馬が1頭います。その馬に関心を寄せ、一緒に歩いてきてください」というワークです。
Dさんは、馬場に入るなり、一気にその裸馬との距離を縮め、「さあ行こう」と何度も声をかけました。さらに、馬の顔をのぞき込んだり、手をたたいたり、馬の首を押したりしながらコミュニケーションを図ったのです。
次に、馬から少し離れて、優しく呼んだり、自ら歩く手本を見せたりもしました。
しかし馬は、1歩も動きません。
「馬が無反応で困りました。難しいですね」
苦笑いしながら、馬場を出てきたDさん。
そこで、その様子を見ていたほかの参加者の方たちに、フィードバックをしてもらいました。
「Dさんは馬場に入るなり、すぐに馬に働きかけていました。最後まで、Dさんの動きが止まることはなくて、ちょっとせわしないなと感じました」
「Dさんは何をしている時も、馬の顔をずっとガン見していました。あれはプレッシャーかも」
「馬は、終始首を高く上げて、両耳をDさんに向け、口も閉じていました。緊張していたのではないでしょうか」
「馬に関心を寄せるというテーマだったと思うのですが、Dさんは、自分のしたいこと(馬と歩きたい)をするために必死になっているように見えました」
Dさんは、「そうか、僕の自我が前面に出ていたんですね。馬に優しく寄り添って声をかけているつもりだったのですが・・・。全然ダメですね」とつぶやき、そのまま黙ってしまいました。