働き方や価値観が多様化する現在、リーダーのあり方が問い直されている。そんな中、アップルやナイキ、アウディといったグローバル企業で導入されているのが「牧場研修」だ。世界のビジネスエリートは、なぜ自然に学ぶのか? そこで培われるリーダーシップやビジネススキルとは? 本連載は、各国の牧場研修に参加し、スタンフォード大学で斯界の世界的権威に学んだ小日向素子氏の著作『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(小日向素子著/あさ出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第2回は、欧米で積極的に研究・導入されてきた「牧場研修」が、日本でも注目され始めた背景を解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?
■第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?(本稿)
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?
■第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?
※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから
世界のビジネスエリートが積極的に自然から学びを得る背景
自然からの学びを重視するというスタンスは、欧米で積極的に研究・導入されてきました。
スタンフォード大学医学部もその1つです。
アメリカの医療機関では、「医師がカルテばかりを見て目の前の患者を見ない」といった問題が頻発しています。
本来であれば、医師は目の前の患者を観察し、言語化されない内面を瞬時に汲み取って、適切に対応することが求められます。しかし、それが行われていないために、求められるケアができていないのです。
そこでスタンフォード大学医学部は、「患者を機械的に扱わない」「医師としての感覚を研ぎ澄ます」「ストレス低減」といった目的で、2005年に牧場研修を導入しました。
馬と感覚でやりとりをする体験を通じて、自らの感覚を研ぎ澄ましていくのです。同時に、集中力の強化も図るそうです。救急患者を受け入れた時は、医師の1分1秒の判断が生死を分けるため、「10秒を10分と感じるような集中力」が求められます。馬と対峙する経験を重ねることで、このような集中力を身につけるというわけです。
世界の名だたるトップ企業、アップル、フェイスブック(現メタ)、ナイキ、アウディ、ヒューレット・パッカード、セールスフォースなどでも、研修として取り入れた実績があります。
経営者個人で利用したり、企業が役員研修や幹部候補生育成に利用するなど、様々な形で活用されているといえます。
私が行っているナチュラル・リーダーシップを身につけるための牧場研修も、ここ数年、参加者が増えてきています。
激動の時代において、多種多様な環境に対応できるリーダーシップは、組織、個人問わず必要とされており、自然から学びを得ることの大切さに気づき始めたのでしょう。
最初に牧場研修を本格導入してくださった企業は、資生堂でした。
幹部候補の女性社員がマネジメントや経営のスキルを学ぶ、育成塾の企画運営を担当していた田岡大介さんは、牧場研修を導入した理由を次のように語ってくださいました。
社員の8割が女性であり、国内における女性リーダー比率が30%以上(2017年当時)であった資生堂も、女性リーダーの多くに「女性がリーダーをやるのは大変。男性のようにはできない。偉人でなければできない」といった「意識(思い込み)」 があったそうです。