宿泊予約サービス「一休.com」を運営する一休。2005年に東証マザーズ上場、2007年には東証一部上場を果たしたが、その直後から業績が頭打ちとなる。なぜ同社の成長は停滞したのか?事業再生を担った榊淳氏(現社長)は、どんな改革によって売り上げ10倍、営業利益率5割超えの再成長を実現させたのか? 2024年2月に書籍『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』(翔泳社)を出版した榊氏に、変革を成就させるまでの道筋と、停滞期を打開した「データドリブン経営」の実践法について聞いた。(前編/全2回)
■【前編】戦略転換で売上10倍、榊淳社長が語る一休に転機をもたらした「ある顧客の声」(今回)
■【後編】「勝つ組織」への改革で再成長、一休の「個の力をレバレッジする」仕掛けとは
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絶好調だった一休がなぜ、業績停滞を招いたのか
――著書『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』では、一休が全社的な経営改革を経て売り上げ10倍、営業利益率5割超えを実現したメソッドを紹介しています。なぜ、一休は業績の停滞期に直面したのでしょうか。
榊淳氏(以下敬称略) 競争のルールが変わったにもかかわらず、従来のやり方を続けていたことが原因だったと考えています。市場が成熟し、さまざまな宿泊予約サービスが出てきている中で、自社の競争の源泉が失われ始めていることに気付いていなかったのです。
こうした状況に直面するまでの経緯からお話しします。一休が宿泊予約サービスを開始したのは、2000年のことです。「高級宿」に特化した宿泊予約サービスを展開し、2005年に当時最少人数で東証マザーズ市場上場、2007年には東証一部上場と、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。
しかし、2008年頃から顧客数が伸び悩みはじめ、停滞期に入ります。顧客数は頭打ちとなり、売り上げが伸びず、株価も低迷する厳しい状況が続きました。私が一休の経営に参画したのは、このころでした。
2012年、インターネットでの宿泊予約サービスの市場は、まだ伸びている状況でした。取引先の高級宿からの信頼も確立されており、社員も皆やる気があるものの、一休の業績は一向に上向きませんでした。そこで、社員と議論を繰り返し見えてきたことは「自分たちが競争のしかたを間違えているのではないか」ということです。
一休は宿泊予約サービスの中でも「高級宿」に特化したサービスを展開してきました。取引先である高級宿からも「一休.comから予約できること自体が、自分たちのブランディングにつながる」と捉えてもらっていました。当時は「取引先とのリレーションシップ」が競争力の源泉だったため、それによって成功体験を積み重ねていたのです。
しかし、その成功体験こそが停滞期を招いた原因でした。