宿泊予約サービス「一休.com」を運営する一休は上場後に業績が頭打ちとなるが、2012年以降の経営改革によって売り上げ10倍、営業利益率5割超えの再成長を果たした。復活の力となったのは、榊淳氏(現社長)が主導した「データドリブン経営」を軸とした改革だった。一体どのような改革を行ったのか。前編に続き、2024年2月に書籍『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』(翔泳社)を出版した榊氏に、改革の具体策やAI時代に目指すべき同社の未来像について聞いた。(後編/全2回)
■【前編】戦略転換で売上10倍、榊淳社長が語る一休に転機をもたらした「ある顧客の声」
■【後編】「勝つ組織」への改革で再成長、一休の「個の力をレバレッジする」仕掛けとは(今回)
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「顧客側の視点から見る」ための独自のフレームワーク
――前編では、一休が戦略を再構築するまでの経緯や、「データドリブン経営」の考え方についてお聞きしました。著書『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』では、「顧客行動の見える化」をするために独自のフレームワークを使ってデータ分析を行っていると述べられています。具体的には、どのような分析を行っているのでしょうか。
榊淳氏(以下敬称略) 一休ではデータドリブン経営を実践する上で、独自のフレームワークを「3つのグループ」に分けて、顧客行動の見える化に取り組んでいます。
1つ目は「売り上げに至るプロセス」の見える化です。ここでは、顧客が商品やサービスを購入するまでに「どのような流れがあったのか」という行動プロセスを見える化します。これは「顧客は自社と他社の商品を見比べて、どちらの商品を買ったのか」「どのチャネルから自社の商品にアクセスしたのか」というものです。
例えば「顧客の購買プロセス」を見える化する際には、売り上げを「ウェブサイトの訪問者数」×「購入率(CVR※1)」×「購入単価(購入者の平均予約単価)」という要素に分解します。つまり、売り上げを合計金額だけで捉えるのではなく、「自社のウェブサイトに何人の顧客が訪れ、うち何人が実際に商品を購入して、その購入単価はいくらだったのか」というように、行動を起こしている顧客側の視点から捉えるわけです。
しかし、さらに分析を進めなければ「誰に、何をするのか?」という施策に落とし込むことはできません。そこで、新規顧客や既存顧客といった「顧客セグメント」ごとに分析します。既存顧客ならば、利用金額によって「ヘビーユーザー」「ライトユーザー」「休眠ユーザー」に分けることができます。
このように分析することで「どのような顧客が」「どのように購買行動を行い」「どのように売り上げにつながったのか」という一連の流れを明らかにできます。そして、その結果から「誰に、何をすべきか」という施策の軸を定めることができるのです。
2つ目の「売り上げから利益に至る財務データ」の見える化も、顧客側の視点から見ることは共通しています。ここでは売り上げや利益などの財務データを分析します。一般的には「商品別」「部門別」といった軸が用いられますが、一休では「顧客別」で細かく分けた分析を行います。
※1. CVR(コンバージョンレート):ウェブサイト訪問者のうち、実際に商品・サービス購入に至った件数の割合