変貌する中国市場における新たなビジネスチャンスとは?本連載は、年平均4.7%の成長率を維持し、さらなる成長の機会を獲得しようとする中国が描く「新発展」戦略や新たに生まれる巨大市場について、気鋭の研究者が徹底解説した『2030年中国ビジネスの未来地図』(チョウ イーリン著/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第3回は、高い潜在成長力を秘めた地方都市・農村都市を指す「下沈市場」の消費者の特徴と、この市場を開拓すべき2つの意味を解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 「下沈市場」「国潮・国貨」、2030年代の中国市場を見通す注目ワードとは?
■第2回 9.3億人超、全人口の66%を占める「下沈市場」に注目すべき3つの理由
■第3回 なぜ日系コンビニの弁当が伸び悩んだのか?「下沈市場」の特徴とは?(本稿)
■第4回 ファーウェイも実践、下沈市場を開拓するための「農村包囲都市」戦略とは?
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「下沈市場」の特徴
「下沈市場」の成長性は明らかになっていますが、攻略するためにはまず、その特徴と成熟している大都市や沿海部市場との相違を把握する必要があります(図表3)。
沿海部や大都市での忙しい生活と対照的に、「下沈市場」では朝9時から仕事を始め、夕方17時の定時で帰る働き方が主流です。そのため、時間的余裕があり、暇つぶしのための消費活動を求める傾向が顕著です。
一方で、レストランや映画館、カラオケなど選べる娯楽活動は限られています。そのため、スマートフォンを使い、気軽に閲覧できるショート動画にはまりやすいわけです。
大都市の消費者が追い求める「消費昇級(消費のレベルアップ)」と比べると、コストパフォーマンスを重視する傾向が強いのも、「下沈市場」の消費者の特徴です。企業にとっては低価格が依然として最有力の武器であるため、価格の優位性を確保する必要があります。
ただ、購買力の向上によって、以前と比べると「下沈市場」の消費者も、「消費昇級」によってより良いモノ・サービスを求めるようになりつつあるという側面もあります。
「下沈市場」で価格競争よりも重要だと思われるのが、地域の特性を意識した、モノ・サービスのローカライズ戦略です。
ある日系コンビニが江蘇省無錫市に位置する県級市で「下沈市場」に当たる3級都市の江陰市に進出したときの話です。大都市で売れ行きの良い弁当を目玉商品として出したところ、最初の2、3日の売上は好調だったのですが、その後は伸び悩んでいました。
その理由を調べたところ、江陰市の昼休み時間は2時間前後もあり、急いで弁当を買って食べる人はほとんどいないことが明らかになりました。最初は弁当のおいしさを知りたいという興味から買った人が多かったのですが、その多くの人は一度食べれば十分だと思ったそうです。
この事例はローカライズの重要性を示すと同時に、「下沈市場」への攻略の難しさも浮き彫りにしています。「下沈市場」で成功したければ、1級都市などでの成功体験を真似すれば良いという考え方をまず捨てるべきです。