不確実性を増す社会で、企業を成長させていくために必要なものは「野心的な目標」と「実行できる体制」と話すのは、アクセンチュアの廣瀬隆治氏と大前陽一氏だ。先行きが見えない時代だからこそ、あえて長期的な攻めの姿勢を貫くことが、成長期待を与え、企業に人とカネを呼び込むというのである。同社が描く変革の筋道を聞いた。
不確実な社会が問う、企業の存在意義
——アクセンチュアでは、日本の大企業に対して「野心的な目標」を持つべきだと提言しています。その理由は何ですか。
廣瀬隆治氏(以下敬称略) 前提として、世界の「不確実性」が増加していることをお話しています。当社の調査では、この5年間で不確実性の指数は3倍に跳ね上がっています。
不確実性の要因は、コロナやロシアのウクライナ侵攻など、予測不可能な出来事が突如起こることもあれば、消費者の変化、気候変動などさまざまです。新技術の登場もその一つです。ただし技術は、不確実性を生み出す要因であると同時に、社会に新しい価値を生み出す要素でもあります。
さらに、人口減少など、中長期的に確実に訪れる環境変化も、実際に事業に影響を与える危険水域に入ってきています。こうした不確定要素を前提に、経営のかじ取りをどうすべきかが喫緊の課題となっています。
大前陽一氏(以下敬称略) 私が主に担当している金融業界でも、不確実な要因が満載の状況は同じです。金融というと規制で固められた業界のイメージを持たれると思いますが、実は今では、株主が経営者に対してROI(投資利益率)を求めることが普通です。
しかし、この不確実性のなかで、だれも正しいROIを言い当てることはできない状況です。そこで、金融機関でも、既存のガバナンスを離れた特区的な領域を作って、そこで攻めの施策を存分に行ってみる。一方で従来の守りの部分は確実にやっていく。そういう取り組みの模索が始まっています。
——不確実性を前に、企業の経営には変化が見られるのでしょうか。
廣瀬 大企業はこれまで、短期的な財務パフォーマンスにフォーカスしてきました。しかし、経営者とお話をしても、何かをしなければいけないという意欲を感じます。例えば、中期計画の策定をやめる企業も出てくるなど、変化が見られます。
経営の難しさ、不確実性に直面しているからこそ、1周回って企業の存在意義を確認し、向かうべき山の頂として、野心的な目標を定めなければいけないと考える経営者が増えてきているのだと思います。
そして、その目標を実現するために欠かせないのがデジタルです。新技術は新しい価値創造のための原動力であるため、その技術を全社に素早く実装し、社内のデータと掛け合わせてスピーディーに成果を出すための「デジタルコア」が、経営戦略を成功させる基盤として必要になります。
——変化に対応していくだけでなく、新しい価値を生み出すことに挑戦していかなければいけないということですか。
廣瀬 そうです。DXは「攻め」と「守り」に分けて語られることもありますが、攻めと守りを同時に実行する、もっと言えば、今、本当に求められているのは攻めの経営であり、DXです。
野心的な目標を掲げ、自社だけでなく社会も変えていく挑戦を始めている企業に対して、意欲を持った人材も集まる傾向があります。その人材の力が次の成長につながり、企業に好循環が生まれています。
一方、守りについても手を抜くわけにはいかないところですが、既存事業の自動化、効率化など、当社にはノウハウの蓄積があります。守りを安定させることで、攻めの施策をより積極的に進めることができます。