フーシ派「紅海での作戦拡大」
中東地域ではイスラエルとイランの直接対決の構図となり、一時、極度の緊張に包まれたが、幸いにも杞憂に終わったようだ。
報復合戦となったものの、被害は最小限にとどまったとされており、双方がメンツを保つ形で「手打ち」となった感が強い。
「ガザ戦争」開始から200日が経過し、イスラエルの関心はイランからパレスチナ自治区ガザ南部の都市ラファヘと戻りつつある。
国際社会では「ガザ戦域からラファに流れ込んだ100万人超の避難民に甚大な被害が及ぶのではないか」との懸念が再び広がっているが、イスラエル側はこれを気にするそぶりを見せていない。地元メデイアは「ラファでの地上作戦はごく近いうちに実施される見込みだ」と報じている。
イスラエルとイランの対立が落ち着きを取り戻す中、イランの代理勢力による攻撃が再び激化する可能性が高まっている*3。
*3:イスラエル・イラン対立、今後は 代理攻撃か報復応酬か(4月20日付、日本経済新聞)
ガザ南部ハンユニスのナセル病院の敷地内の地中から23日までに300以上の遺体が見つかったことに憤慨したイエメンの親イラン武装組織フーシ派は「紅海での作戦を拡大する」と宣言している。
筆者はフーシ派によるサウジアラビアの石油施設への攻撃に警鐘を鳴らしてきたが、「そのリスクは一段と高まってしまったのではないか」と危惧している。イスラエルとサウジアラビアが国交を正常化するよう、バイデン政権が両国に働きかけていることが明らかになったからだ*4。
*4:米がパレスチナ国家樹立後押し(4月20日付、日本経済新聞)
ガザ戦争開始後、イスラエルとの国交正常化を停止していたサウジアラビアだが、前述したとおり、経済は低迷しムハンマド皇太子への求心力も揺らいでいる。
このような状況下で米国の要求をむげにはできない。
イスラエルは中東最大の産油国で資金力もあるサウジアラビアとの国交正常化を長年望んでおり、サウジアラビアはパレスチナ国家の樹立を条件としている。イスラエルがパレスチナ国家を承認するハードルは依然として高く、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化も一筋縄ではいかないとみられる。
だが、両国の接近を警戒するイラン側がサウジアラビアに対して何らかの行動に出るかもしれない。
イランはサウジアラビアと国交を回復しているため、直接的には攻撃できないが、フーシ派ならできる。中東地域の地政学リスクが地政学的現実にならないことを祈るばかりだ。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。