米軍の作戦構想の実戦的適用

米陸軍

 中国の「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」戦略に対抗する米国のインド太平洋軍事戦略における米陸軍の役割は、統合作戦レベルの「エアシー・バトル(ASB)」構想の下、海兵隊とともに第1列島線国に展開し、同盟国・友好国の領土防衛に寄与するとともに、主として敵基地攻撃や対艦・対空ミサイル等をもって中国海・空軍の侵出を阻止することである。

 その作戦構想は、マルチドメイン作戦(MDO)と呼ばれ、MDOを推進する改革・近代化の中心組織が、マルチドメイン任務部隊(MDTF)である。

 MDTFの組織編成は、次図の通りである。

米陸軍のマルチドメイン任務部隊(MDTF)の組織編成

<出典>US Congressional Research Service,“The Army’s Multi-Domain Task Force (MDTF)”, Updated April 19, 2024

 MDTFは、戦域レベルの機動部隊として設計されたものであり、敵のA2/ADネットワークのすべてのドメインに対して、精密効果と精密射撃を同期して及ぼすことができる。

 また、MDTFは戦域レベルから戦略レベルまでの拡張性を持ち、統合任務部隊司令官の要求に応じてカスタマイズすることが可能である。

 現在、米陸軍は5個のMDTFを整備目標としている。

 そのうち、すでにインド太平洋に2個、欧州に1個の計3個MDTFを配置しているが、インド太平洋にもう1個配置する予定で、他の1個は米中央軍の戦域(中東)に配置される可能性が高い、とウォーマス米陸軍長官の発言として伝えられている(Defense News、2024年2月28日付)。

 このように、MDTFの戦力配分に当たっては、インド太平洋が重視されており、その編成装備の概要は次記の通りである。

・I2CEWS(諜報、情報、サイバー、電子戦、宇宙)大隊は、2個のMI(軍事情報)中隊、各1個のSIG(通信)、ERSE(長距離センシング・影響)およびINFO DEF(情報保全)中隊から編成されている。

 諜報戦、情報戦、サイバー戦、電子戦及び宇宙戦を遂行するとともに、SF(戦略砲兵)大隊およびAD(防空砲兵)大隊の作戦を支援する。

・Strategic Fires Battalion(戦略砲兵大隊)は、HIMARS(高機動ロケット砲システム)中隊、MRC(中距離能力)中隊およびLRHW(長距離極超音速兵器)中隊から編成されている。

 いずれの中隊も、INF禁止条約で禁じられていた中距離(500~5500キロ)の地対地ミサイルを装備し、敵の防空・野戦砲兵や弾道ミサイルシステム、指揮統制組織などを目標に長距離精密射撃を行うことができる。

 この中の、長距離極超音速兵器(LRHW)は、射程が2776キロと推定されている。

 グアムに配置しても中国大陸を射程圏内に収めることはできないが、第1列島線、例えば日本の九州、台湾、フィリピンに配置すれば、中国大陸の主要エリアをカバーすることができ、中国にとって大きな脅威となるのは確実である。

 また、中距離ミサイル能力(MRC)システムは、既存の「Navy SM-6」と「UGM-109 Land Attack Missile」を地上発射型に改修したもので、射程が約1800キロあり、中国大陸を十分に攻撃することが可能である(マニラから広州市までの距離は約1250キロ)。

米陸軍の極超音速LRHW:射程距離1725マイル(2775キロ)

<出典>Breaking Difence, 2021.05.12、地図:国土地理院を利用して筆者作成

・Air Defense Battalion(防空砲兵大隊)は、暫定機動近距離防空システム(IM-SHORAD)などの間接火力防護能力(IFPC)を装備すると見られ、防空(AD)およびミサイル防衛(MD)に従事し、敵航空機や弾道・巡航ミサイルを撃墜し、我が作戦空域への侵入を阻止して統合任務部隊を防護するとともに、航空優勢を獲得して行動の自由を確保する。

・BS B(旅団支援大隊)は、MDTFの後方支援部隊であり、同構成部隊に対し、整備や輸送、補給などの兵站支援を行う。

 今般のバリカタンでは、MDTFのMRCシステムが初参加しており、フィリピン軍関係者は、演習期間中に同システムの実射訓練が行われることを認めている。

 チャールズ・フリン米太平洋陸軍司令官(陸軍大将)は2024年4月、在日米大使館で一部メディアの取材に応じ、「中距離(ミサイル)能力を持つ発射装置がまもなく、(アジア太平洋)地域に配備される」と述べており、バリカタンはその最初のテストケースとなる。