(4)航空攻撃に伴うリスクや問題点

 作戦上のリスクや問題点としては次のようなものが考えられる。

ア.領空通過許可

 現在、シリア、イランを除くほとんどの中東の国に米軍が配備されている。よって、これらの国の防空は、米軍が管轄していると見られるので、攻撃部隊は領空通過許可を得ることなくヨルダン、イラク上空を飛行することができる。

 また、ステルス機であるので、近隣諸国の防空システムによって察知される可能性は極めて小さいであろう。

イ.イランの防空システム

 イランは、ロシアから購入した防空用の地対空ミサイルシステムS-300を配備している。

 S-300は、日本が配備している地対空ミサイルシステム「パトリオット」(自衛隊の公式表記はペトリオット)と同程度の能力を有するとされる。

 攻撃部隊にとっては大きな脅威となる。しかし、前述したようにイスラエルのF-35が、S-300のレーダーに探知されずにイランの首都テヘラン上空に侵入したという報道が事実ならば、攻撃部隊の脅威にならないかもしれない。

 また、2020年1月8日、イランのテヘラン発、キエフ行きのウクライナ国際航空752便(ボーイング「737-800」型機)が、離陸直後にイスラム革命防衛隊の地対空ミサイル「トール」により誤って撃墜され乗員乗客176人全員が死亡した。

 トールはロシアが開発した自走式短距離防空ミサイルシステムで、射程は10キロ、無線指令誘導方式である。

 自衛隊の「短SAM」と同程度の能力を有すると見られる。

 ステルス性に優れたF-35であれば、トールの捜索レーダーによる探知を回避することは可能であろう。

ウ.米国の協力

 攻撃部隊にとって必須のものは、攻撃目標の画像と対空脅威情報である。イスラエルは、自国の軍事偵察衛星を運用している。

 とはいえ、軍事偵察衛星分野では、運用する軍事衛星の数と種類においても他国を圧倒する米国との情報交換が不可欠であろう。

 また、米軍がイラク空域をコントロールしていることなど、イスラエルの軍事行動の成功には米軍との協力が必須である。

 さらに、イスラエルが単独で軍事攻撃を実行したとしてもイランが中東の米軍基地等に対しても報復を行う可能性は極めて高い。

 このため、イスラエルの軍事行動に対する米国の「了解」は不可欠である。

エ.イランの軍事的報復

 イランの軍事的報復もイスラエルの航空攻撃に伴う重大なリスクである。

 イランの報復としては、弾道ミサイルや無人機その他の軍事的な手段によるイスラエルへの報復攻撃、ヒズボラやハマスを使った代理攻撃などが想定される。

 一番の懸念は、イスラム世界がイランを支持するか否かである。

 イスラム世界がイランを支持した場合は、中東全体を巻き込んだ「第5次中東戦争」に発展することが危惧される。