(2)シリアのアルキバル原子炉に対する航空攻撃(2007年)

「バビロン作戦」から26年後、2007年9月6日にイスラエルは、シリア東部にあったアルキバル原子炉を航空攻撃し、ほぼ完全に破壊した。

 イスラエルのエフード・オルメルト首相は、諜報機関モサドの情報から、シリア政府が北朝鮮の援助を受けて核兵器開発を進めているという疑いを強めた。

 オルメルトは米国のジョージ・W・ブッシュ大統領にこの情報を伝えてシリアの核開発計画を武力を使ってでも阻止するよう求めた。

 しかし、米国は当時イラクおよびアフガニスタンと戦争を続けていたために、シリアへの軍事攻撃に難色を示した。

 このためイスラエルは単独でアルキバル原子炉爆撃に踏み切った。

「オーチャード(果樹)作戦」と呼ばれたこの奇襲航空攻撃には、4機のF-15と4機のF-16の合計8機の戦闘機の他電子戦機が参加した。

 シリア軍の防空部隊に気付かれないように、電子戦機がシリア軍のレーダーに偽の画像を送り続けた。

 攻撃部隊は、米国製の空対地ミサイル「AGM-65 (マーベリック)」を使用した。

 前もってシリアに侵入したイスラエル軍特殊部隊の兵士たちが、地上から原子炉のある建物にレーザーを照射して、ミサイルを誘導し命中させた。

 ちなみに、2007年9月、米アビエーション・ウイーク紙は、ある米国の情報専門家の話として、イスラエルがシリアの核施設を攻撃する際に、サイバー攻撃が行われたと報じた。

 また、米国の元サイバー担当大統領特別顧問リチャード・クラーク氏は、その著書『世界サイバー戦争(CYBERWAR)』(原書の出版は2010年4月)の中でイスラエル空軍のシリア核関連施設への空爆時にサイバー攻撃が行われたと述べている。

『世界サイバー戦争(CYBERWAR)』には次のように記載されている。

 2007年9月6日、シリアの防空レーダーには何も映らなかった。それには、3つの可能性が考えられる。

 一つ目は、イスラエルが爆撃前に無人機により防空レーダーに「パケット」データを流し込んだ。

 2つ目は、シリアの防空システムを開発したロシアのプログラム研究所あるいはシリアの軍事施設において、ある者が防空システムのプログラムにマルウエアを挿入した。

 3つ目は、イスラエルの工作員がシリア国内に潜入し、防空網の光ファイバー回線からネットワークに接続し、マルウエアを挿入した。

 さて、当時、欧米メディアはこの爆撃について「イスラエルによる攻撃か」という報道を行ったが、一方、イスラエル政府は26年前の「バビロン作戦」とは異なり沈黙を守った。

 このため国連安全保障理事会も原子炉攻撃を非難する決議を行わなかった。シリア政府もこの攻撃を黙殺してイスラエルに対する報復を行わなかった。

 イスラエルは、攻撃から11年後の2018年3月22日に、アルキバル原子炉爆撃を正式に認めた。

 国際原子力機関(IAEA)は、破壊された原子炉跡を視察した結果、周辺地域でウランを検出した。

 IAEAは、シリア政府がIAEAに報告せずに、この場所で原子炉を建設していた疑いが強いとする報告書を発表した。