原油価格は220ドルまで高騰

 仮に2022年末の原油価格(WTI)をベースに、オイルショック時の上昇率(1978年)を当てはめて試算すると原油価格は220ドルまで高騰する。その際、中国の年間の経常収支は約2027億ドルの赤字にまで落ち込む(2017年~21年の平均値は1764億ドルの黒字)と試算される。中国の動向いかんでは、中国のG7向け対外直接投資4355億ドルは凍結(没収)される可能性がある。

 以上の状況を踏まえつつ、今回の試算では、基本的にいずれのシナリオも「有事の円高」を前提としているが、この「米中本格対決シナリオ」では日本が米中交戦の舞台となり、日本自身も当事国になることから、円安に転じる可能性も考慮した。

 また原油価格は、シナリオ(1)~(3)では産油国や油田地帯が戦地になるわけではないため大きく変動することを想定していないが、「米中本格対決シナリオ」では米中という超大国同士の対決となるため、高騰することを想定した。その価格は、少なくとも過去最高値の原油高(ドバイ原油価格:109.06ドル)まで、著しい場合を想定して第二次オイルショック並みの原油価格騰落率128.3%を今の原油価格に当てはめた額まで上がるものとした。

 以上のように、為替が円高・円安のどちらに振れるか、原油高がどこまで上がるかによって振れ幅を設けた結果、「米中本格対決シナリオ」ではGDPが4.6~15.1%減少するという深甚な影響が生じるとの試算となった。15%のGDP減少は、第一次および第二次世界大戦時の落ち込みを優に超える経済ショックとなる。

本シナリオ作成の前提となる米中対立構造、その前提としての米国の覇権モデル、各シナリオの詳細などは実業之日本フォーラムがまとめた報告書「米中の対立構造と台湾有事シナリオ・プランニング」に記載している。今後、同フォーラムでは、各シナリオのさらなる精緻化を進め、業界ごとの影響なども調査していく予定だ。