1月の台湾総統選では、中国がかねて「分離主義者」と非難する与党・民進党の頼清徳副総統が勝利した(写真:AP/アフロ)

 台湾を「不可分の領土」とする中国が軍事侵攻によって台湾統一を図る「台湾有事」。発生すれば日本も無傷ではいられない。具体的にどれほどのインパクトがあるのか。地経学分野の言論・研究プラットフォーム「実業之日本フォーラム」は、台湾有事を引き起こす力学を米中対立構造から考察しつつ、軍事衝突が日本経済にどのような影響を及ぼすかについて調査して報告書にまとめた。

 その結果、ワーストシナリオでは、日本のGDPが15%減少すると試算された。2回にわたりその概要を解説する。

習近平政権による現状変更の必然性が高まる理由

 2024年1月に行われた台湾総統選では、中国がかねて「分離主義者」と非難する与党・民進党の頼清徳副総統が当選した。注目を集めたのは票差だ。僅差と読まれていたが、国民党候補・侯友宜氏は80万票という大差で敗れた。

 直前の世論調査から地滑り的に民進党が得票を増したのは、投開票の5日前の8日、国民党の馬英九元総統が「両岸(中台)問題では習近平を信用しなければならない」と発言したことも影響していると言われる。侯氏は慌てて「私とは考えが違う」と火消しに追われるはめになった。

 中国との統一を明確に拒む民進党はもちろん、親中的といわれる国民党ですら、「習近平を信用する」という発言が“失言”となる――。これが台湾の民意の所在だ。親中傾向の強い国民党支持層も中台関係を好転させることを望んでいるが、現状を変更して中国と統一することは望んでいない。

 つまり、民主主義の政策決定システムが機能し続ける限り、台湾は「現状維持」を選択し続ける。しかも、時が経てば経つほど「台湾人」としてのアイデンティティーが成熟し、その傾向は増していくだろう。ここに、中国・習近平政権にとっての、台湾に対して何らかの手段で現状変更を試みる必然性――つまり台湾有事が生起する可能性が生じている。

 地経学分野の言論・研究プラットフォーム「実業之日本フォーラム」は、この「台湾有事」のリスクについて、シナリオごとに日本経済にどのような影響があるのかを試算した。

 その結果、最も烈度の高いシナリオでは日本のGDPが15%減少する可能性があることが分かった。この落ち込みは、日米欧の主要国合算GDP成長率で5%強の減少となったコロナ危機よりも大きく、第一次および第二次世界大戦時の落ち込みをも凌駕する。

 台湾有事の背景にある米中対立構造の分析も含めた詳細な調査結果は実業之日本フォーラムで配布している調査報告書に譲り、本稿および次稿「《台湾有事、4つのシナリオを詳解》米中本格対決ならGDP15%減も コロナ危機比3倍の大打撃が日本経済に」の2回に分けて中国が台湾に軍事侵攻するいくつかのシナリオとその影響を紹介したい。