西アフリカではたびたびエボラウイルスの感染拡大が起きている。写真は2014年にリベリアの首都モンロビアで開かれたエボラ出血熱の感染予防を訴えるイベント(写真:ゲッティ=共同)

「エボラウイルス病」が蔓延するアフリカや「新型コロナウイルス」クラスター対策の最前線で戦ってきた医師の古瀬祐気氏。感染症対策の専門家である彼が、世界で、そして日本で展開してきた活動は想像以上にスリリングで、地道で、そして報われることが少なくとも使命感で進む道であった。そんな古瀬氏の著書『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(中公新書ラクレ)は、感染症と戦う彼が世界で繰り広げてきた冒険記でもある。

(東野望:フリーライター)

「感染症の専門家」古瀬祐気による青春奮闘記

 2019年に発生した「新型コロナウイルス」により引き起こされたパンデミックは、世界中で600万人以上の死者を出すことになった。

 どこの地域が緊急事態宣言を出したとか、新規感染者数は何人だったかなどのニュースが飛び交う中、その最前線で戦う男がいた。その人こそが『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(中公新書ラクレ)の著者である医師・古瀬祐気氏(現在は東京大学新世代感染症センター教授)その人であった。

 古瀬氏は「感染症の専門家」で、「新型コロナウイルス」発生時にクラスター対策班として活動した人物である。本書ではそんな彼が世界で経験した深刻な感染症対策現場での出来事や、私たちでは想像もつかないコロナ禍の過酷なクラスター対策班の実情などをわかりやすく紹介している。それはさながら1人の青年が夢を見つけ、さまざまな困難に立ち向かっていく奮闘記のような内容である。

「感染症の専門家」の奮闘記と聞くと、どことなく難しそうな印象を持つ人もいるかもしれない。しかし本書の内容はなかなかスリリングで衝撃的なエピソードが多い。

感染症対策のために古くから続いていた驚きの方法

 2014~2015年に西アフリカで致死率が70~90%にも及ぶ「エボラウイルス病」が大流行し、古瀬氏もWHO(世界保健機関)の要請でリベリアに派遣されていた時の話もそうしたエピソードの一つだ。

 エボラウイルスは、感染した動物との接触で人へのウイルス伝播が起こるのだが、特に血液や生肉に触れることが危険だとされている。そんな中、現地では感染を広げないために驚くべき対応がとられていた。

現地で聞いた話だが、一部の村では「サルを調理するときは、捌く前に、まず生きたまま茹でて殺さなければならない」とか、「高熱がつづく病人がでたら、森の中に連れて行って置いて帰る。そこから自力で帰れるまでに快復しなければ村に入れない」といった風習があるそうだ。

防護服にゴーグル、マスク姿でエボラ出血熱の患者の遺体を運ぶ赤十字のスタッフ。リベリアの首都モンロビアの様子(写真:中野智明氏撮影、共同)

 一見すると衝撃的にも思われるこれらの習慣。しかし古瀬氏は単に否定するのではない、その考え方のギャップについて考えるようになった。