組織の高いところから落ちるのを恐れ、部下に確認を繰り返す「カクニン虫」(イラスト:きしらまゆこ)
  • あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints=制約理論)の第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
  • 第6回は、組織の上層部に生息し、ときどき下界に降りてきて「コストは?」「競合は?」などと現場を問い詰める「カクニン虫」。現場は書類作成など事務作業に追われることになり、イノベーションが停滞する。
  • カクニン虫は普段は標高の高いところに生息するため、退治するのが極めて困難という厄介な虫だ。もはや「共生」の道を探るしかない。(JBpress)

(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)

名称:カクニン虫
職場へのダメージ:★★☆☆☆
主な生息地:組織の高いところを好む。イノベーションや開発など現場の会議に定期的に雲の上から降りてきて、「コストは?」「市場規模は?」「競合は?」などと確認を繰り返すので発見は容易。
特徴:組織の高いところから落ちるのを極端に恐れるあまり、たくさんの確認を繰り返す習性がある。この虫が蔓延(まんえん)すると現場は商品づくりよりも、書類づくりに追われ、イノベーションが停滞する。「リスクを恐れるな!」「チャレンジしろ!」などと叫ぶこともあり、この矛盾した行動がどうして起きるのかは各地で研究対象になっている。「シーエー虫」が雲の上の手の届かないところに上がると「カクニン虫」に変異するとの説もある。
>>他の害虫(イラスト)を見る(連載未登場の害虫は次回以降、解説していきます)

イノベーションの邪魔をする「カクニン虫」

「商品をつくっているのか、書類をつくっているのかわからない」

 こんな悲鳴が現場から聞こえてきたら、あなたの職場を「カクニン虫」が混乱させている可能性がある。「カクニン虫」が発生すると、商品開発より会議のための書類作成が優先され、現場は疲弊し、モチベーションが急激に下がる。最悪の場合、退職者が続出する。

(写真:Khakimullin Aleksandr/Shutterstock.com

「カクニン虫」は主に組織の標高が高いところを好み、普段は雲の上に生息している。ところが、定期的に現場に降りてきて会議に参加し、「コストは?」「市場規模は?」「競合は?」などと質問攻めにする。現場は想定される質問に答えるために会議書類の作成に追われ、「マルチタスク虫」が大量発生する。

 現場の開発効率は当然ながら劇的に下がる。すると、「カクニン虫」は「リスクを恐れるな!」「チャレンジしろ!」と気まぐれなことを言うようになる。リスクを徹底的に確認しチャレンジできない風土を作りながら、一方で、リスクを恐れずチャレンジを推奨する矛盾した行動はなぜなのかは、未だに解明されていない。

 そんな現場の状況に、普段は雲の上にいる「カクニン虫」は気がつくことはほとんどない。確認を繰り返すことで、現場のイノベーションを支援する「益虫」と勘違いし、自己満足している場合が多い。雲の上が棲み家なので手が届きにくく、退治するのは極めて困難である。

岸良 裕司(きしら・ゆうじ)  ゴールドラット・ジャパン最高経営責任者(CEO)
全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の第一人者。2008年4月、ゴールドラット博士に請われて、イスラエル本国のゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任。主な著書・監修書は『ザ・ゴール コミック版』(ダイヤモンド社)、『優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか』(ダイヤモンド社)、『子どもの考える力をつける3つの秘密道具』(ナツメ社)など。東京大学MMRC 非常勤講師、国土交通大学 非常勤講師、国際学会発表実績多数。