中国の李克強前首相の死去を伝える中国の新聞(写真:ロイター/アフロ)
  • 李克強・中国前首相の死去は、習近平政権にとって「非常にタイミングが悪い」ものだっただろう。
  • 低迷する国内経済に対する不満が顕在化し、ガス抜きのため対外強硬路線に向かう可能性もある。
  • バイデン米大統領は王毅外相と面会し、習近平国家主席との首脳会談への地ならしを試みたが、実現は不透明だ。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 10月27日に死去した李克強前首相を悼む動きが中国全土で広がっている。
 
 李氏の故郷・安徽省では、幼少期を過ごした家の跡地に多くの市民が訪れ、29日までの2日間で数万人以上が献花したと言われている。

 中国共産党・政府は27日、李氏の死去について「党と国家にとって大きな損失だ」と哀悼の意を示した。だが、内心では「非常にタイミングの悪い時期に李氏は死去した」と苦々しく思っているのではないだろうか。

亡くなった李克強・前首相が幼少期を過ごした家の外で献花する人たち(写真:AP/アフロ)

 李氏は2013年から10年間、首相として主に経済分野を担当した。習近平政権の発足当初、李氏の経済政策は「リコノミクス」と称された。中国経済を高度成長から円滑に安定成長に移行させるため、資源の配分を市場に任せ、国有企業より海外を含む民間企業の活力を引き出して生産性を高めることを基本原則としていた。

 だが、党の指導を絶対視する習氏と相いれなかったのだろう。習政権の2期目に入ると、李氏の存在感は薄れ、自身が進めようとしていた改革は未完に終わってしまった。

 李氏の死は、中国政府が重い腰を上げて経済対策に乗り出した矢先の出来事だった。

 国会にあたる全国人民代表大会は24日、今年の新規国債の発行を1兆元(約20兆5000億円)増額することを決定した。中国で年度途中に予算が修正されることは異例のことだ。景気対策の主役を担ってきた地方政府が深刻な財政難に陥っていることから、これまで財政悪化を招く経済政策に後ろ向きだった中国政府がやむなく国債を発行して資金を調達することになった形だ。

 交通や通信などのインフラ整備の需要を創出し、景気を下支えする狙いがあるとされている。だが、追加財政の規模は中国の国内総生産(GDP)の1%未満に過ぎず、中国経済の本格的な回復に寄与するとは思えない。