総合経済対策で物価高への対応を盛り込んだ岸田政権(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)

アベノミクスが目指した「好循環」の理想と現実

 巷間で期待される、そして政治サイドが志向する日本経済の「好循環」とは、単純化すれば「賃金上昇→消費増加→物価上昇→賃金上昇→……」という三角形の経路であろう。

 賃金が上昇すれば消費が増加し、消費が増加すれば物価が上昇、企業収益が改善し、それがまた賃金上昇につながるという考え方だ。

 アベノミクスは、まさにこの「好循環」を引き起こすために打ち出された。三角形でいえば、賃金が起点として期待された。

 アベノミクス第1の矢の「大胆な金融政策」により円安が進行し、企業収益が拡大、企業がその恩恵を賃上げにより家計に還元する、いわゆる「トリクルダウン」である。

 旧・安倍政権は「経済の好循環に向けた政労使会議(2013~15年)」や「働き方改革実現会議(2016~17年)」、「経済財政諮問会議」などの場で、毎年のように財界に賃上げを要請してきた。

 現・岸田政権もアベノミクス継続を打ち出し、「新しい資本主義実現会議(2021年~)」を立ち上げ、「成長と分配の好循環」を実現させるため財界に賃上げを要請している。

 だが、アベノミクス開始からまもなく10年が経とうとしているが、この「好循環」はなかなかうまく機能していない。