2月24日、開戦演説を行うウラジーミル・プーチン露大統領(c)露大統領府

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

[ロンドン発]2~3日でキエフを無血開城させ政権を交代させる当初の作戦を諦め、泥縄式に都市包囲戦に突入したロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻の「大義」を再ブランド化するのに苦労している。

 東部の親露派地域を解放する限定的な「特別軍事作戦」と国民に嘘をついて全面侵攻に踏み切ったものの、今度はそれを覆い隠すためウクライナが化学・放射能兵器を使用しようとしているとの新たな「偽旗作戦(でっち上げ)」を始めた。

全面侵攻を正当化する新たな偽旗作戦

 露国防省報道官は3月6日、ロシア軍がロシア国境近くのウクライナでアメリカが資金提供する生物兵器研究の証拠を発見したと全くデタラメの発表を行った。ロシアの放射線・化学・生物学的防衛の責任者は7日、リビウ、ハルキウなどにある米出資の研究所が証拠をロシア側に渡さないよう炭疽、ペスト、サルモネラ菌などの生物兵器を破壊しているとありもしない主張を展開した。

 中国外務省報道官も8日、アメリカが生物兵器計画のために使用している研究所をロシアが発見したと述べ、アメリカに対して情報を開示するよう求めた。露国営メディア、RTは中国の報道官発言を紹介し、ウクライナにおけるアメリカの生物兵器施設疑惑がもたらす危険性を強調した。露国防省報道官は9日「ウクライナの民族主義者」がハリコフ北西の村に80トンのアンモニアを届けたと発言した。

 米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は、ロシア軍が自国の軍隊や住民にも影響が出る生物兵器を使用する可能性は極めて低いものの、ロシアはシリアの化学兵器使用に加担した「前歴」があると指摘する。

 ロシア軍はチェルノブイリ原発を占拠するとともに、ザポリジャー原発を攻撃し、火災を発生させた。ロシアメディアはウクライナがチェルノブイリ立入禁止区域を利用して検出されないよう核兵器の実験を行い「汚い爆弾」を製造したと報じた。

 ISWの報告書は「ロシアは意図的に放射能災害を引き起こすか、独自の放射能兵器を使用して責任をウクライナになすりつける可能性がある。ウクライナが化学・放射能兵器を使用したという新たな偽旗作戦でロシア国内の怒りを煽り、ウクライナへの攻撃をさらにエスカレートさせる口実に使うかもしれない」と予測。米欧の情報機関は収集した機密情報を積極的に公開して、プーチン氏の「隠れ蓑」をはいで裸にする必要があると強調する。