お巡りさんがテイタ割り?

 しかし、こうした庭場も、近年は減少の傾向がある。なぜなら、テキヤの規制が厳しくなり、跡を継ぐ若い者が減ったりして、親分不在の庭場が出てきたからである。そうなると、庭場の番人をするのは、われらが公務員であるお巡りさんにお鉢がまわってくる。

 お巡りさんもナカナカやるもので、ちゃんとテイタを割ってくれる。この警察によるテイタ割りのことを、業界では「ヒネ割り(ヒネとは警察を指す隠語)」と呼ぶ。しかし、テイタを割ったあとの保守点検までは手が回らない。だから、もし、先述した一石三鳥の店主のような業腹な人間が出てきたとしても、そのケツを所轄署に持ち込んだところでどうにもならない。食中毒が出たといって、警察署長が謝罪するなという図は想像できない。これでは、やった者勝ちである。

 ヤクザは一般人からクレームを付けられることはないが、テキヤにとって、お客さんからのクレームは、組の看板、ひいては親分の顔に泥を塗ることになる。筆者が居候していたテキヤでも、かつて食中毒が出た時は、幹部が土下座もので謝罪したと聞いた。もっとも、お客さんがテキヤの事務所に怒鳴り込むというのではなく、クレーム自体は、神社の社務所に上がるのであるが。

 そのほかにも、目に見えない、いわゆるテキヤのサブカルチャーともいうべき、掟の下に彼らの稼業は成り立っている。

テキヤの不文のならわし

 テキヤは業態が移動であり、様々な人間が入ってくる。筆者が居たテキヤにも、ガテン系元公務員や農村の力自慢の若い衆が居た。しかし、稀に在所を追われたヤクザも来る(筆者がテキヤの世話になった時は、一般の求人誌に掲載されていた)。応募者がヤクザの場合は「どこそこの何某が、当方の世話になりたいと来ているが、そちらのお身内だった方ではないか」などと、電話で身元確認を行う。黒字破門か除籍程度で、かつ先方の親分さんが、「何某は、いまは当家とは関係の無い者です。在所の誰それ親分さんにはご面倒掛けますが、よろしゅう・・・」などと言ってくれたら、身柄を引き受けるが、ヤクザとして重大なマチガイをやらかして、赤字破門や絶縁と判明した場合は、テキヤでも引き受けない。