リーマンショック以降、公的需要の抑制によりGDP成長率が鈍化し、長期停滞論が語られるが、企業業績と、利潤率は歴史的高水準にあるし、着実な雇用増が続き失業率は5%とほぼ完全雇用状態、フィリップスカーブが機能し賃金上昇率は2%を超え、2%の物価目標実現も見えている。利上げが必要な状況にある。

 ここ10数年中間層の実質賃金が停滞しているというが、それは情報化革命によるコスト低下をデフレーターが十分に織り込んでいないからに過ぎない、といえる。ネット社会における利便性、効用の増加の顕著な進歩を考えれば、中間層といえども生活水準が大きく向上していることは、論を待たない。

 金融面では主要先進国では唯一米国のみが流動性の罠に陥っていない、つまり市場における資本配分機能が維持され、余剰資本が滞留していない。他の先進国ほどではないが企業の高利潤が十分な投資需要に結び付いていないが、自社株買いと配当により企業は株式時価の5%の株主還元を行いそれが家計の資産所得を支えている。

 この背景には労働、金融市場における公正な市場機能が維持され、空前ともいえるAI・IT革命によるイノベーションが活発に進行していることがある。技術革命とその成果を社会とビジネス、人々のライフスタイル向上に結び付ける市場と制度の柔軟性がある。米国は当面の景気情勢からみても、長期的トレンドでみても、世界経済の唯一最大といってよい機関車である。

 ローレンス・サマーズ氏など少なからぬ論者が、米国経済のGDP成長率がリーマンショック後屈折したことをもって、米国が長期停滞に陥ったとの論評をしている。長期停滞論そのものの適否は別として、成長率が屈折したのは公的需要が2010年以降まったく横ばいにおちいったからであることは指摘されるべきであろう。図表9に見るように民間需要はすでに過去成長トレンドに復帰しているのである。しかし米国の財政赤字対GDP比は2010年の12%から2%台へと大幅低下し、もはや公的需要抑制の必要は全くない。

 次期大統領はヒラリー・クリントン候補でも、ドナルド・トランプ候補でも、ともに財政政策を活用することを主張しており、公的需要の伸びを大きく高める政策を遂行するだろう。それが長期停滞論を打ち破る結果になるかもしれない。

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