【明白な賃金上昇圧力、利上げ促進要因に】
そうした観測は米国マクロ統計事情とも整合的である。過去50年の米国の労働分配率の推移を振り返ると、景気拡大の前半では労働需給が緩慢で賃金上昇率が低く労働分配率が低下した。しかし景気拡大の後半では労働需給ひっ迫により賃金上昇率が高まり、労働分配率が大きく上昇するという決まったパターンが繰り返されてきた。その2014年まで長期低下してきた労働分配率が、2015年の後半以降顕著に上昇していることが注目される(図表7)。
リーマンショック後6年間にわたって経済停滞と労働余剰に苦しんできた米国経済はいよいよ、労働余剰が一掃されて完全雇用となり、デフレリスクの完全払しょくに成功した。これからはインフレリスクの高まりがより現実的になってきているのである。
【雇用統計発表直後の市場反応が誤りである可能性】
このように米国5月雇用増加数の急減はむしろ米国景気の強さ、インフレ圧力の高まりを示唆している可能性が高いとすれば、それは市場の反応とは逆に利上げ促進、ドル高要因であると解釈できる。
先週末の海外先物市場ではドル安・円高により日本株式が急落しているが、それが間違った解釈である、とすれば目先は絶好の買いチャンスになるはずである(英国によるEU離脱投票のリスクを無視すればであるが)。
(2)米国経済の頭抜けた健全性
【歴史的イノベーションを可能にする米国労働・資本市場の効率性】
大統領選におけるポピュリスト候補トランプ氏、サンダース氏の躍進により、米国の衰退論がことさらに強調される。しかし、歴史的に見ても国際比較でみても、米国経済の健全性は頭抜けている。