2011年3月に発生した東日本大震災によって、我が国のエネルギー供給構造の基本、すなわち大規模集中システムの弱点が再認識されると共に、我が国におけるエネルギー政策の在り方を大きく見直すきっかけとなった。
スマートグリッドからスマートコミュニティへ
もちろん、大規模集中システムが、既存の電力インフラとして優れた点も多くあるのは事実だが、我が国経済発展の基盤であるエネルギー供給を、再生可能エネルギー等の導入促進により一層分散し、かつ安定したものに変革していくことは必要不可欠な状況といえる。
こうしたエネルギー・社会システムの変革は、東日本大震災でその加速的な展開が望まれることとなったとはいえ、以前から指摘されており、国としても取り組んできたことである。
少子高齢化、エネルギー環境制約、グローバライゼーションの視点の中で、エネルギー政策において重要な4つの要素である、エネルギーセキュリティ、経済性、環境問題、安全性といった、それぞれが複雑に絡み合った要素をバランスよく解決していくことは、過去20年間、常に我が国の政策上の大きな課題であり、その答えの一つがエネルギーを含めた社会システムの変革、ひいてはスマートグリッドの推進だったといえよう。
スマートグリッドは、太陽光発電や風力発電等の新エネルギーを大量導入する時代を想定して、情報通信技術(ICT)を駆使し、電力システム全体の効率化やインテリジェント化を図る概念として昨今大変注目されている。次世代電力網とも言われるスマートグリッドに関連する技術は、電力システムとICTが融合する、電力事業周りの改革の意味も包括するものである。
スマートグリッドが脚光を浴びる背景には、上記で述べた事情に加え、世界的な電力市場の多様化と、フィードインタリフ制度(固定価格買取制度)による新エネルギー分散電源の大量導入要請、特に米国においてはオバマ大統領が推進するグリーンニューディール政策の一環としてスマートグリッド促進を掲げ、世界的に馴染みの深い単語となったことが大きい。
先に述べた通り、スマートグリッドは、ICTを活用した電力網に沿ったイノベーションである。ICTを活用する対象は必ずしも電力網に限らなくてもよく、グリッド(電力系統)以外のもの、例えば、熱供給や地域交通システム、さらには市民のライフスタイルの変革までをも幅広く取り込むことで、エリア単位での次世代のエネルギー・社会システムである「スマートコミュニティ」という概念が登場する。
地域が目指すスマートコミュニティにはそれぞれの地域ごとに目指すべき姿があってよいはずであり、結果的にスマートコミュニティの定義は、「そこに暮らす人、家庭、働く人、事業者が環境とエネルギーに優しい行動を自立的且つ持続的に取ることが促される街」であるといえよう(図1参照)。
本稿では、こうしたスマートコミュニティの必要性に立脚し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が取り組んでいる最新の実証事業や、今後の課題について述べる。