「タコライス」は米兵の頬張る“基地の味”

沖縄で生まれた大らかな夏の料理

2012.07.20(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 「タコライス」という名前を初めて目にしたのはいつだったか。どこか都内のカフェだった気がする。おそらく多くの人が思っていたように、最初はタコ(蛸)を使った料理を想像していた。なんとなく、洋風チャーハン的なものを。

 今回取り上げるにあたって資料を読んでいて、「タコスといってもタコの酢のものではない」(『週刊朝日』1996年9月16日号)なんて記述を見かけた。ほんの十数年前まで「タコライス」という料理は一般的でなかったのだ。

 いまではタコライスを、タコを使った料理だと考えている人は少ないだろう。もはや言うまでもないかもしれないが、タコライスとは、タコスの具をごはんに載っけた食べものである。

 白いごはんの上に、炒めた挽肉、チェダーチーズ、シャキシャキとしたレタス、トマトをどかどかと載せ、サルサソースをかける。小洒落たカフェなどに行くと、具の上にさらに目玉焼きが載っかっていたりする。

 日本料理から見れば、タコライスはかなりギョッとする食べものである。「第二のカレーライス」と言われることもあるようだが、その呼び方にはちょっと違和感がある。カレーライスはどちらかと言えば汁物だ。汁物をごはんにぶっかけるのは、和食の常套手段。けれど、タコライスには汁気がない。

タコライス。熱いライスの上に定番の挽肉、チーズ、レタス、トマトを載せる。

 そう言うと、汁気のない丼ものもあるじゃんと思われるかもしれない。が、タコライスの異質さは、酢飯ならいざ知らず、あったかいごはんに生野菜が載っかっているところだ。繊細さがウリの日本料理にあって、タコライスの大らかさ、豪快さは異質である。あとから沖縄で生まれた料理と聞いて、さもありなんと合点した。

 では、この大らかな料理はどんなふうにして生まれたのだろうか。今回は、夏に食べたい一品の源流をたどってみよう。

本場のタコスは多種多様

 タコライスの誕生を追いかける前に、この料理の元となった「タコス」についてちょっと触れておきたい。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。