ハヤシライスは謎と混乱の煮込み料理だった

「林」か「早矢仕」か「ハッシュド」か

2012.03.09(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 ハヤシライスとハッシュドビーフはどう違うのか。

 かねてうっすら疑問に思いつつも、なんとなくやり過ごしてきた。

 ハッシュドビーフは、ホテルのレストランなどで供される本場仕込みの欧風料理(本場がどこかは分かっていない)。ハヤシライスは、日本人の口に合うよう改良された洋食屋のメニュー。そんなふうにざっくり分けて考えていた。

 だが、本当のところはどうなのか。長年の疑問に向き合おうというのが、今回の目的だ。

 図書館に調べに行く前に軽くネットで検索してみる。

 「ハヤシライス ハッシュドビーフ 違い」と入力して検索すると、出てくるわ、出てくるわ。私と同じように疑問を抱いていた人が、世の中にかなり存在していることが分かった。

 で、検索してスッキリしたかといえば、全然スッキリしない。ハヤシライスとハッシュドビーフは同じと断定する人もあれば、別物であると主張する人もいる。結論に至るまでの解説も何バージョンかある。

 結局のところ、ハヤシライスの発祥には諸説ある、というのが分かっただけだった。

ハッシュドビーフ説とハヤシさん説

 ハヤシライスの生まれについては、大きく分けて2つの説がある。最もよく見かけるのが、「ハッシュドビーフ起源説」だ。

ハヤシライス。欧風カレー似だが、味はマイルドで一線を画す

 「ハッシュ(hash)」は「(肉などを)細かく切る」の意。細切れ牛肉を煮込んだ料理にライスを添えた「hashed beef and rice」もしくは「hashed beef with rice」が「ハッシライス」もしくは「ハイシライス」と略され、ハヤシライスに転じたというのが、ハッシュドビーフ起源説だ。

 言語学者の楳垣実は『日本外来語の研究』の中で、「ハシト」(ハッシュドを縮めた呼び方)が「ハヤシ」に訛ったのは、明治時代によく使われていた「切り刻む」を意味する「はやす」の影響があったと述べている。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。