■ 高利益率――結果と同時に要因である

「利益率は結果」と認識されている方が多いと思われますが、「要因」ともいうことができます。なぜでしょうか?

 キーエンスは「翌日配送」を競争力のひとつにしています。「それでは在庫負担が重いだろう」と考えますが、2024年3月末の「在庫(776億円)÷過去12か月の売上高(9673億円)」は29日分相当に過ぎません。どうしてこれほど少ない在庫で翌日配送ができるのか、と不思議になります。

 理由は簡単です。売上原価/売上高比率(原価率)が17%と圧倒的に低いためなのです。「在庫(776億円)÷売上原価(1648億円)」は172日となり、実は6か月分相当の在庫を保有しているのです。そう、翌日配送に魔法のような仕掛けはないのです。

 もし、原価率70%の企業が、キーエンスと同じように原価ベースで172日分の在庫を保有しようとすると、どうなるでしょうか? 売上高はキーエンスと同じとすると、3188億円の在庫を保有する必要があります!

 在庫保有リスク(製品の陳腐化。年5%としても150億円)、在庫管理コスト(同1%とすると32億円)、金利負担(同1%なら32億円、2%なら64億円)などなど、300億円程度のコストがかかるでしょう。

 同時に、債権回収リスクも減少します。いうまでもなく、原価率17%の債権未回収リスクは原価率70%の企業よりもはるかに小さく、さらにその差は広がります。自己言及パラドックスのようですが、利益率が高い(原価率が低い)は結果であると同時に要因でもあるのです。

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■第4回 「キーエンスはつんく♂である」創業から50年にわたり驚異の粗利益率80%を維持する製品企画力の源泉とは?(本稿)
■第5回 「ブラック・スワン」を見逃さない ジョンソン・エンド・ジョンソンが新事業の使い捨てコンタクトで成功できた理由(3月25日公開)
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