制御機器業界に属する多くの企業においては、代理店経由の販売が販売額の多くを占めると思われます。一方、キーエンスは自社社員による直接販売です。顧客との接点を通して、ユーザーが抱える問題点を認識、企画・開発部門にフィードバックし、その課題に対する解決策を製品化する。
代理店経由の販売では、顧客のニーズへの反応がどうしても鈍くなってしまいます。逆にいえば、製品で差異化ができないために製造工程での差異化を余儀なくされている企業もあるかもしれません(申し上げるまでもなく、製造技術が付加価値の源泉である企業もあります)。
となると、誰もが思うのは、「同業他社も直接販売すればよいのでは?」ということでしょう。おっしゃる通りです。筆者もそのように進言していましたし、そもそも、筆者にいわれなくても同業の皆様もわかっていたと思います。しかし、できなかったのです12。
直販に切り替えようとすれば、既存の代理店網からの反発を招き占有率を大きく落としかねない懸念が大きかったと思われますし、また、自社で直販網を構築するのも簡単ではありません。しかし、徐々にキーエンスが大きくなるにつれ、危機感が出てきたのでしょう。
同業各社の妥協案は「自社の営業が代理店の営業と一緒に顧客訪問する」でした。しかし筆者は、それでは勝てないと思いました。費用の二重計上ですし、根本的な解決になっていません。
キーエンスと同様に、代理店経由販売が一般的な産業で直販によって競争力を獲得した他の事例を紹介します。ヒロセ電機・酒井氏の節でも紹介した未来工業です。
未来工業の手掛ける建設資材産業は一次問屋(10社)―― 二次問屋(3000社)―― 最終顧客という構造になっていて、一次問屋企業から「うちを使え」という要請(圧力?)が何度もあったそうですが、創業者の山田氏は断りました。200億円を一次問屋に販売すると約15%、30億円の手数料が発生する。
であれば、全国に社員を200人配置しても十分おつりがくるとして直接販売をし、それが、同産業での巨人・松下電工(現パナソニック)との差異化になったそうです。
一方、業種は違いますが、2024年9月20日付の「日本経済新聞」朝刊では、米国ナイキのジョン・ドナホーCEOの退任にあたって、同CEOが量販店を通さない直販を進めたことが占有率の低下につながったとしています。代理店活用と直販、どちらがよいのか一概にいえるものではありませんが、それは手法であり、重要なことは「顧客理解」であるといえます。
2「できなかった」と同時に「しなかった」ともいえるかもしれません。キーエンスの同業他社は同社をそれほど脅威だと認識していなかったように思います。30年ほど前、同業の1社の方に「キーエンスは脅威ではないですか?」とお聞きしたところ、「うちが負けるはずがない」との回答でした。