筆者は、20年ほど前に書いたレポートのタイトルを「キーエンスはつんく♂」としたことがあります。いまの若い人たちには過去にはやったグループかもしれませんが、「モーニング娘。」(や、秋元康氏によるグループ)は画期的なシステムでした。
それまで、アイドルといえば個人もしくは2人(ピンク・レディー)~3人(キャンディーズ)の編成で、かつ固定メンバーでした。対して、つんく♂さんや秋元さんは、多人数で構成され、かつ、メンバーが固定していないグループを提案したのです。当時、そうしたグループがこんなに成功すると思った人はどれほどいたでしょうか。
これら大規模グループの1人ひとりの魅力度合いは、他の芸能人と比較したときに際立って高いわけではないのですが、全体としては魅力的なものになっています。(冷徹にいえば)構成員は代替可能であり、演出家はその時々の需要に合った人をメンバーに迎えることで新鮮さを保つことができます。個々のメンバーよりも演出家のほうがリスクは小さいでしょうが、経済的な恩恵を最も享受しているのは演出家であるといえるでしょう。
若い世代の好みをつんく♂さんや秋元さんが理解するのと同様に、キーエンスにはソニーやトヨタ自動車の工場が何を求めているかを感じ取る感性、そして、自社および外部の技術を俯瞰して、その要望に応じる製品に昇華させる技能があるのです。
■ 顧客理解――どうやって作るか(how)ではなく、何を作るか(what)
前項から想像できるように、キーエンスを一般的な企業とは違うものにし、かつ、最も重要な工程は、(キーエンスの競争力は重層的なものであることを承知のうえであえていえば)製品企画力(顧客が求めているものの理解)といえるでしょう。
誇張していえば、同業他社が 「どうやって作るか」に頭を悩ませるのに対して、キーエンスは「何を作るか」 に重点を置いているのです。顧客の生産性に貢献できる製品を思いつく創造力、感性こそが、キーエンスの付加価値の源泉といえます。
その商品企画の「素」となるのが、営業です。顧客を知ることなく製品開発はできません。同社では営業組織が顧客ニーズの吸い上げを担っています。