高まるネット銀行の存在感

 ブラジルでは金融とIT(情報技術)を融合したフィンテック分野で新興企業が活躍している。そうした民間の基盤があってPIXの活用が広がっているのだ。代表的な存在が2013年創業のネット銀行であるヌーバンク。スマートフォンのみで口座開設やカード発行が完結する利便さが売りといえる。24年5月には利用者数が1億人を超えたと発表した。

 発祥地のブラジルで9200万人、メキシコで700万人、コロンビアで100万人の顧客がいる。発表資料では「アジア以外では初めてこの水準を上回ったネット銀行」と自賛しており、口座規模は世界で有数といえる。

ヌーバンクは世界最大級のネット銀行(2023年 、サ ン パ ウ ロ )

 創業者は南米コロンビア出身のダビド・ベレス最高経営責任者(CEO)だ。米西海岸の名門スタンフォード大学を卒業後、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーという投資銀行を経て、米大手ベンチャーキャピタル(VC)のセコイア・キャピタルに勤務した。

 同社で中南米投資を担当していた際、ブラジルで銀行口座がなかなか開設できなかった経験から、起業を思い立った。大手銀行での口座開設は本当に時間がかかる。身分証明書はもちろんだが、水道やガスといった公共料金の請求書が必要になり、入国当初は住居がない外国人にとっては特にハードルが高い。

 ブラジルでは20年時点でも、国営と民間の大手5行が貸出残高と預金残高の7割強を占める、寡占的な市場だ。大手金融機関の商品やサービス向上への意識は低かった。ヌーバンクやC6銀行などのネット銀行は、使い勝手が良く、安価なサービスにこだわっている。低所得者層に金融サービスの門戸を開き、顧客獲得競争が激しくなったのがネット銀行の最大の功績といえる。