これまでの銀行は口座の維持手数料やクレジットカードの高額な年会費を取っていたが、ヌーバンクは無料にした。銀行は「高嶺の花」だったわけだが、これによって初めて金融にアクセスが可能になった市民は多い。ヌーバンクはいまはクレジットカードに加えて、投資、個人向け無担保融資、保険、証券にサービスの範囲を広げている。

 ヌーバンクによると、デジタルの仕組みを活用することで、23年には顧客にとって110億ドルの手数料削減につながったという。過去7年間で店舗での待ち時間を4億4000万時間削減した計算になるとの試算も示している。

 ベレスCEOは「13年に我々は5年間で100万人の顧客を集めるという野心的な目標を設定した。その時点ではほぼ不可能とさえ思っていた。それがわずか10年で1億人を超えた」と振り返る。

 ヌーバンクの持ち株会社であるヌーホールディングスは21年12月にニューヨーク証券取引所に新規株式公開(IPO)した。初値は11.25ドルと、公開価格(9ドル)を25%上回った。初値での時価総額は約520億ドル。

 地元紙エスタド・ジ・サンパウロによると、上場ブラジル企業では3番目の規模となった。国営石油会社ペトロブラス、資源大手ヴァーレに次ぐ規模で、一気にブラジルを代表する企業として金融市場に登場した。この時点で約380億ドルだった金融大手イタウ・ウニバンコ・ホールディングを上回っていた。

 上場時の調達額は26億ドル。調達資金を用いてメキシコやコロンビアでの事業を拡大している。同社には著名投資家ウォーレン・バフェットが率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイやセコイア・キャピタル、中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)というそうそうたる顔ぶれが出資しており、今後の成長への期待も高い。

 ベレスCEOは上場時に米メディアであるCNBCの取材に応じて「今後は多くの銀行の実店舗は消えることになるだろう」と述べている。

<連載ラインアップ>
第1回 メルカドリブレ、アマゾン、エリクソン…ブラジルのEC市場はどう急成長し、ネットは貧民街をいかに変えたか?
第2回 ブラジルで人口の約7割が利用する電子決済「PIX」は、なぜクレジットカードを超えるほどの市民権を得たのか?
■第3回 「今後は銀行の実店舗が消える」ブラジル発のネット銀行「ヌーバンク」はいかにして南米の金融市場を変革したのか?(本稿)
■第4回 SOMPO、ダイハツ、味の素…ブラジル駐在経験者が企業トップに就くケースが目立ち始めた理由とは?(1月8日公開)

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