外部との獲得競争に対応すべく、DX部門の等級制度も刷新
――「外部の人財に対するアプローチ」としてはどのようなことを行っていますか。今は各社がDXの担い手を求めており、獲得競争は熾烈(しれつ)になっています。
大久保 そうした外部との獲得競争に対応するため、いくつかの取り組みを行っています。一例として、DXに従事する人財には特化した処遇体系を適用できる「TOPPAN版ジョブ型人事処遇制度」を取り入れました。
これは2022年4月から開始した新たな等級制度です。とりわけ上位等級については、それまでの全職種統一の等級制度を改め、「事務・管理部門」「営業・企画部門」「研究・開発部門」「DX部門」という4つの職群ごと、それぞれの区分で格付けする形にしました。より成果に応じた処遇につなげるためです。
特にDX部門は、格付けの区分が細かく設定されています。きめ細やかな評価をすることで、DXに従事する従業員の働きがいにつなげたいと考えたのです。この制度により、外部から当社のDX事業に加わる人財を増やす効果が生まれればと思います。

また、地方で働き続けたい技術者の採用強化に向けて、長野や沖縄、北海道、広島、福岡などに「ICT KŌBŌ」という開発拠点を設けています。その他、当社を退職した従業員の再雇用制度「カムバックキャリア制度」も導入しました。
これらによって経験者採用を積極的に進めた結果、2022年度はその割合が29%だったのに対し、2023年度は34%と獲得が進んでいます。今後も専門性を持った人財の獲得に向けて経験者採用の拡充を考えており、新卒と経験者の採用比率を1対1にすることを計画しています。
――これらにより、Erhoeht-Xの従事者は現在どれくらいの人数でしょうか。
大久保 2022年度は4300名、2023年度は5223名となりました。DX事業の拡充に向けた体制構築が順調に進んでいると考えています。
新たな手当をはじめ、従業員のマインドセット支援も
――大きな事業変革の中で、従業員のメンタルやモチベーションに対して行っていることはありますか。
大久保 成長事業への人財シフトを進める中で、従業員自身にも成長に向けた自己革新のマインドセットが必要です。先述のジョブチャレンジ制度で主体的な異動とポートフォリオ変革の掛け合わせを進めるのはその一つです。
また2022年度には、今後の成長のための自己投資に活用してもらう「業績向上期待賞与」を一時的に導入しました。さらに2024年度からは、毎月支給型の「ジョブチャレンジ手当」の導入を決めました。従業員の等級に応じて一定額を支給し、働く意欲を高めます。会社が変わる中で、従業員一人一人も成長に向けた取り組みをしてほしいのです。
これ以外に当社ならではのユニークな取り組みとして、「臨床美術」という手法によって従業員の感性やひらめきに働きかけ、心の活性化を図る活動にも力を入れています。グループ会社のTOPPAN芸造研が提供する手法で、育児休業中の社員と子どもが親子で一つのアート作品を制作する、あるいは部門横断でアート作品を作り社員同士のコミュニケーション活性化を図るなど、多彩なプログラムを実施しています。
――人手不足はあらゆる企業にとって共通の課題です。人事施策を自社の成長につなげていくカギはどこにあると考えますか。
当社の人財に対するポリシーは「人間尊重」です。事業変革が進む現在もその考えは普遍であり、これこそがカギだと考えています。
TOPPANグループの始まりは、1900年当時に最先端技術だったエルヘート凸版法をベースにして、旧大蔵省の技術者たちが集まって創業したベンチャー企業です。以来、さまざまなイノベーションを創出してきた歴史があります。こうしたイノベーション創出の精神こそが当社のDNAです。
イノベーションを生み出すのは従業員であり、会社の貴重な財産です。だからこそ人的資本を生かす「人間尊重」の経営を貫いてきました。
人間尊重を体現し、人的資本の価値を最大化するには「やる気」「元気」「本気」を持って働ける職場・環境づくりが重要です。それは従業員のウェルビーイング向上と大きく関わるでしょう。自社の事業が社会に貢献しているという実感や、それが自分自身の成長につながっているという手応えを持つことでウェルビーイングは高まります。こうした環境を作ることで、従業員がイノベーションを生み出す土壌ができ、企業価値の向上につながっていくと考えています。
