最近注目が集まる「削減貢献量」とは

 最近話題になっている、「削減貢献量」について紹介しよう。企業がスコープ1、2、3の排出量を削減するには、従来の原材料や設備の調達から生産方法、ユーザーの利用、廃棄までを考慮して全体的に見直しが必要となるため、コスト感が強まりやすい。

 また削減を意識するあまり、新しい投資や経済活動が阻害されるとの懸念も広がっている。

 そこで、削減貢献量として、ある技術を採用したり、投資をすることで回避される予想排出量をもとに企業の貢献度を見ていくべきとの考えが企業の間で支持を得ている。削減貢献量をスコープ4と呼ぶこともあるが、スコープ1、2、3と本質的に異なることを理解しておくべきである。

 スコープ1、2、3の排出量は、実際の大気に排出される温室効果ガス排出量である。こうした排出量データを、企業の基準年と比べてどれだけ減ったのか、正味ゼロ目標と比べてどの程度削減できているのか進展度を示すことが開示の中心となっている。

 下の図は、スコープ1、2、3の排出量の合計が毎年減っていくことを想定した事例を概念図として示している。

 削減貢献量の発想が支持を集めているのは、排出削減につながるような企業のイノベーションをもっと促すことができるとの考え方がある。自社のスコープ1、2、3の排出量に焦点を合わせるあまり、将来的には排出削減につながっても足元で排出量が増えることを恐れて、技術開発や設備投資が進まないことへの懸念がある。

 例えば、電力会社が送電網を新しく設置したとして、当初は化石燃料源の電力が多く排出量が増えてもしだいに再生可能エネルギーの供給が増えていく場合を考えよう。当初はユーザー企業のスコープ2の排出量、電力会社にとってはスコープ3のカテゴリー⑪(販売した製品のユーザーによる使用)の排出量が増える。

 しかし社会全体あるいは長期的に見て電力会社の送電網への投資は大きな貢献をもたらすことになる。そうした将来の削減量の予想も入れて、送電網を新設しないときと比べた削減貢献量の予想を示すことが考えられる。

 あるいは、電気自動車(EV)を製造する企業が、販売が増えて生産が大きく増えたとする。この企業の原材料(例えば、機器や鉱物資源)の調達先で化石燃料を使っているために排出量が多くなることがある。この場合、EVメーカーのスコープ3(上流)の排出量が増える。

 しかし、環境的な観点から見ればEVを普及させることは将来的に大きな貢献になるであろう。また調達先であるサプライヤーの再生可能エネルギーの利用が進めば、しだいにスコープ3の排出量も減っていくと考えられる。