デジタル技術と温室効果ガスの測定

 ここ数年の間に、温室効果ガス排出源の測定において、衛星、ドローン、飛行機、陸上の遠隔センサー、モノのインターネット(IoT)、ソーシャルメディア等からのデータを利用し分析することが可能になっている。これらの機器は膨大な量のデータを生成するので、それらを処理し分析するには人工知能(AI)の技術が不可欠である。

 AIは、従来のように詳細なプログラムを明示的に書くのではなく、過去の大量のデータ(例えば、画像・写真、文字、数字)を活用し、データに基づく機械学習アルゴリズムを通じてデータや画像を解析し、シミュレーションを行うことができる。AI技術は常に進化しているため、性能も常に向上している。

 AIや衛星画像を使って大量のデータを分析する能力が大きく向上したことで、CO2やメタン排出の監視能力が飛躍的に向上している。例えば、森林の炭素吸収量を測定することが可能になったことで監視が容易になっている。

 従来は森林の炭素吸収量を測定するには、数年に一度の間隔で専門家を派遣し、森林のサンプル地区を設定して木の幹等を測定し、炭素吸収力を算定していた。これでは時間と費用がかかり、またサンプル地区以外での森林伐採や森林劣化による炭素吸収力の減少部分を測定できないという問題もあった。

 最近では、AI技術を用いてレーダーや衛星画像を活用し、森林や植物に固定されたバイオマス炭素量をリアルタイムで正確かつ低コストで監視ができるようになり、森林の保護や再生の判断に貢献している。

 さらに、カーボンクレジットに関しても、森林再生等の自然ベースのカーボンクレジットの発行において、より高精度なデータと情報を提供することで市場の発展に寄与することが期待されている。

 AI技術や衛星画像等も使うことで、道路上の車両通行量、貨物船・タンカーの航海距離、発電所から放出される水蒸気などたくさんのセクターや活動から、リアルタイム、あるいはほぼリアルタイムに大量のデータを集めて温室効果ガス排出量を計測し、分析・集計することができるようになっている。

 こうした排出量データは、政府や企業が排出量や削減効果を迅速により正確に評価するのに今後大きく役立っていくと考えられている。サプライヤー等を含むスコープ3の排出量や、商品のカーボンフットプリントの算定にも大きく貢献していくであろう。

 また、AI技術は、風力、太陽光、波力エネルギーのように一日の変動が大きい電力の予測についても、気候モデルのコンピューターシミュレーションに利用されている。

 天気予報や風力の予測の精度が向上し発電供給量の予測力が高まれば、需要側の調整を迅速に行うことで需要と供給のミスマッチを減らし円滑に電力供給ができるようになる。また、地熱エネルギーでは、AIを駆使して、貯留、探索、採掘、生産に寄与すると考えられている。

 AIを使って、発電所の施設の補修をいつ頃するのがよいかといった予測にも活用できる。