■ キャリアオーナーシップの推進

 先ほど触れた同社が導入したジョブ型人事制度では、以下に示すようなことが展開されています。

  • ビジョン・戦略に基づく組織や職務デザインの実行。
  • 従業員1人ひとりの職務内容について、期待する貢献や責任範囲を示した「Job Description(職務記述書)」の作成。
  • 職責の高さを表すグループグローバル共通の仕組み「FUJITSU Level」を導入。レベルに応じた報酬水準とすることで、社内公募制度と併せて、より高い職責へのチャレンジを促進。
  • グローバル共通の評価制度「Connect」により、社会・顧客へのインパクト・行動・成長を評価。

 これらの施策が機能するには、従業員がキャリアオーナーシップを持つことが必要です。従来の会社主導の配置転換や昇格から一転し、ジョブ型人事制度を導入したことで会社と従業員が対等な関係に変わりました。対等な関係であるということは、従業員の自律性が尊重されるということでもあります。

 それに応えるように、ジョブの社内公募や自主的に他部署への異動の申し出が行えるポスティングを大幅に拡大しました。その結果、2020~2022年の3年間でおよそ2万人が応募、うち7500人が異動を果たしました。

 なお、調査の結果、ポスティング制度で異動した従業員のエンゲージメントが向上していることがわかっています。

■「選ばれる組織」への挑戦

 従業員の自律的なキャリア形成が進むことで、各部門は従業員から「選ばれる組織」になることがより強く求められるようになります。

 そこで、共感を生む組織ビジョンを検討するために、本部長など組織の長が集まって相互にフィードバックを行う「ビジョンピッチ」が開催されています。パーパスは専門チームにより策定されますが、そのパーパスに基づく経営を実現するためのビジョンは組織ごとに設定されるということに、同社の自律を尊重する姿勢がうかがえます。

「ビジョンピッチ」では、各組織長が組織ビジョンを語り、他の組織長や外部のコンサルタント会社などのアドバイスも受けながら、より共感を引き出せる内容に磨いていきます。そのプロセスを経たうえで、本部長は実際に従業員に対してビジョンを語ります。