これ以外にも、自律的なキャリア形成の支援策として「パーパス・ワークショップ」があります。これは社員1人ひとりがあらためて見つめ直した自分の人生の目的を明文化し社内で共有する施策です。

 その一環として2019年、全従業員対象の「Future Fit Plan(FFP)」が行われています。FFPは、「パーパス・ワークショップ」で明文化したパーパスに加えて、リーダーシップの強み、開発向上させたいスキル、自分のウェルビーイングの状態などについて上司との対話を通じて、業務目標や能力開発目標、キャリアプランに結び付けます。

 自分と会社のパーパスが結びつくことで、働く意味や意義がよりはっきりと理解できるようになります。こうして社員が何を考え、何を目指しているのかを理解することによって、会社としての支援方法も具体化されていくことになります。

■ サステナブルオペレーション・リライアブルサービスの実現

 人事部門の大きな役割のひとつに、従業員が余計なことに煩わされることなく、会社と個人の成長およびパーパスの実現に集中できる環境を整備することがあります。そのために同社人事部門では「サステナブルオペレーション・リライアブルサービス(持続可能なオペレーション、頼りがいのあるサービス)」を目指しているとのことです。

 その根幹にあるのが、ユニリーバのフィードバックの文化です。同社のフィードバックは“双方向”という点にユニークさがあります。例えば、会社からの従業員への方針の発表や新制度の導入などがあれば、従業員はフィードバックする機会が設けられます。また、上司からメンバーへのフィードバックは必要の都度行われますし、メンバーが自分から上司にフィードバックを求めることも多いそうです。

 こうしたフィードバックカルチャーを背景として、人事部門がEXに関する従業員調査を実施するときなど、IT部門をはじめとした各部門と連携し、データの収集や分析をシステマティックに行う仕組みが整備されています。

 例えば、従業員の声の収集では人事部門が持つHR情報やエンゲージメントサーベイの結果などが使われますが、これらはIT部門や各事業部門などの協力により蓄積されたものです。2023年には従業員からの問い合わせメールをテキストマイニングにかけて課題抽出をする試みも始まっていますが、これもテクノロジーを活用したものです。

 このように、フィードバックに関する施策をはじめ、従業員の働きやすさにつながる取り組みをいち早く運用していくためにHRテックもどんどん先鋭化させています。

 従業員の働きやすさに向けた今後の取り組みについて、人事に関わる登野城氏は「これからの人事にはHR テクノロジーが切っても切り離せなくなると考えています。

 デジタル化の推進を通してデータ分析の精度向上に尽力し、その結果を反映した施策の立案と実施に取り組んでいきます。同時に、働きやすい環境を整備するための制度を拡充することも必要です。その両輪をバランス良く回していくことで、従業員ひいては会社の発展に寄与していきたい」との方針を示しています。

●取材協力
登野城昌和氏(ユニリーバ・ジャパン株式会社People Experience & Operations Manager)

<連載ラインアップ>
第1回 高報酬だから人材が集まるわけではない、「ヒト」の資本価値を見極める難しさとは?
第2回 社員誰もが会社に対し自由に声を上げられる、メルカリの独自施策「オープンドア」とは?
第3回 社員が異動希望先に“応募”する、パーソルグループの「キャリアチャレンジ」が組織を強くする理由
■第4回 コロナ禍前から場所や時間に縛られない働き方を実践、ユニリーバ・ジャパンが目指すEXとは?(本稿) 
■第5回 社会のDXを支援する富士通は、なぜ全社DX「フジトラ」において従業員とカルチャーの変革を重視するのか(10月1日公開)
■第6回 全社員の声で組織を動かす、富士通の「VOICEプログラム」が変えた従業員の働き方とは?(10月8日公開)

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