何よりも必要なのは経営層の理解

――日本のB2B企業がマーケティング至上主義の経営をしようとしたら、誰かいい人材をCMOに就けるだけでなく、組織などの改革が必要になりそうですね。

庭山 改革も必要ですが、何よりも必要なのは、経営マネジメント層がマーケティングについてある程度理解することが必要です。

 今、日本企業のマーケティングの現場で起きているのは、例えばこんなことです。3年くらい前にマーケティング部門ができ、マーケティングオートメーション(MA)やCRMシステムといったツールを買う予算が付いた。しかし3年たって、経営層からは「いつ売り上げに貢献するのだ」と言われ、切ない思いをしている。こういったマーケティングチームがおそらく数千はあるでしょう。しかも彼らはROIでレポートを出せと言われ、ますます困ってしまう。実際、このような状況をどうすればいいかという相談が私の元へたくさん来ます。

 投資金額を割り出すのは簡単です。マーケティング部門が人件費も含めて1年間に使ったお金を全部足せばいいのですから。でも、リターンの定義とは何か。ROIでレポートを出せといった人にぜひ聞いてみてほしい。そんなもの、誰にも定義などできません。会計的に言えば、リターンは純利益です。しかし、B2Bの世界ではマーケティングをして、顧客がサンプルを欲しいといってきて、それを渡してから発注が来るまで5年も6年もかかるのがごく普通のことです。会計は基本的に単年度ですから、純利益ゼロが何年も続くことになります。だからROIでレポートを書けと言われたら、ROIはマーケティングの評価軸にそぐわないので、別の評価軸で書かせてくださいと言わなければいけないのです。もちろんその理由もきちんと説明できなければいけません。そのためには、きちんと勉強することです。

マーケティングで全てが決まる時代

――庭山さんは今、B2Bマーケティングの研修もしているそうですね。

庭山 世の中のマーケティング研修の多くは、B2Cマーケティングで、B2Bマーケティングの実務を学べる研修はほとんどありませんでした。だからぜひ開講してほしい、という声を多くいただき実施するようになったのですが、一つ驚いたことがあります。受講者の60%くらいが、マーケティング部門以外の方なんです。マーケティング部門の方が受講して、これはマーケティング部門以外の人も受講すべきだと考え、他の部門の方たちにも受講を勧めているようです。

――営業や技術の方たちも学べば、マーケティングについてみんなが共通言語で話せるようになりますね。そういう土台ができれば、マーケティング至上主義経営に1歩近づくことになりそうです。

庭山 今はもうマーケティングで全てが決まる時代になっています。どれほどいい技術、いい製品、いいスタッフを持っていても、マーケティングが弱かったら勝てません。しかし、日本のB2B企業はマーケティングが遅れていると何度も強調しましたが、遅れているのはマーケティングだけですから、今からでもマーケティングをしっかりやれば欧米の企業に追いつくことはできます。ただし、ものづくりの巧みさや社員のロイヤリティなど、いま日本企業が持っているアドバンテージがいつまで持つかは分かりません。だからこそ今、少しでも早くマーケティングに投資をすることが大事です。今持っているアドバンテージを失ってからでは、遅すぎます。

■【前編】B2Bマーケの第一人者・庭山氏が語る、日本企業に「マーケティング至上主義経営」が不可欠な理由
■【後編】「ROIはマーケティングの評価軸にそぐわない」B2Bマーケの第一人者・庭山氏が説く、改革に必要な経営層の本質的理解 ※本稿

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