シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎(撮影:川口紘)

 日本でもようやく、B2B企業にもマーケティングが必要だという認識は広がってきた。だが、マーケティング部門を設置したはいいが、何をしたらいいのか分からないという企業も少なくない。『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP社)の著者で、B2Bマーケティングの専門家である庭山一郎氏に、前編に続き、日本のB2B企業のマーケティングの実態と講じるべき対策について聞いた。(後編/全2回)

■【前編】B2Bマーケの第一人者・庭山氏が語る、日本企業に「マーケティング至上主義経営」が不可欠な理由
■【後編】「ROIはマーケティングの評価軸にそぐわない」B2Bマーケの第一人者・庭山氏が説く、改革に必要な経営層の本質的理解 ※本稿

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CMOに求められる資質

――日本のマーケティングの後れに対し、海外のB2B企業のマーケティングの実情はどのようなものですか。

庭山 一郎/シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役

1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。35年以上にわたって製造業、ITサービス業など600社を超えるB2B企業のマーケティングを手がける。マーケティングコンサルティング、運用支援、研修サービス等を提供している。IDN理事。中央大学大学院ビジネススクール客員教授。著書に「儲けの科学 The B2B Marketing」「BtoBマーケティング偏差値UP」「究極のBtoBマーケティングABM」「ノヤン先生のマーケティング学」ほか多数。

庭山一郎氏(以下敬称略) 米国のB2B企業のCMOは、平均在任期間が23カ月を切っています。つまり2年持たないわけです。そしてやめる理由の約70%は、解任です。つまり、クビですね。そういう世界です。特に米国では、CMOにかかるプレッシャーが尋常ではありません。

――生き残っていけるCMOはどんな資質を持った人ですか。

庭山 米国の人材評価ではよくTシェップ(Tシェイプ)という言葉が使われます。T字のように、マーケティング全般についてしっかりとした知識を持ち、なおかつ特定の分野についてはものすごく深い専門知識を持っている人という意味です。CMOとして生き残るのはそういう人たちです。

――日本企業がCMOを置くという時は、どんなバックグラウンドを持つ人がいいでしょうか。

庭山 絶対、営業がいいですね。マーケティングチームのマネジメントの最重要ミッションは、自社の営業や自社の販売代理店の営業と信頼関係を構築することです。営業とうまくコミュニケーションができないCMOは、半年くらいでやめてしまうケースも少なくありません。

――日本のB2Bの製造業で、マーケティングがうまくいっている例はありますか。あるとすれば、そういった企業はかなり早くからマーケティングに取り組んでいたのでしょうか。

庭山 うまくいっている企業はありますが、それでも精力的に取り組んでいるのはこの10年くらいですね。それ以前からマーケティング部門があった会社もありますが、やっていることはほとんど広報のようなことでした。マーケティングといっても、リサーチとブランディングをしている程度です。

 それもマーケティングとしては大事ですが、欧米のB2B企業が一番重視しているのは営業機会の創出活動「デマンドジェネレーション」です。リサーチやブランディングは、受注から見ると少し距離が遠いけれど、デマンドジェネレーションはうまくいけばすぐ受注に結び付きます。売り上げとの相関が極めて強い。だから欧米の企業はその担当に一番優秀な人間を当て、予算も多く持たせます。

 それに比して日本企業は、マーケティング部門はあっても、デマンドジェネレーションはやっていないケースがあります。デマンドジェネレーションが分からないとマーケティングはできません。したがってブランディングの経験しかない人に、CMOは難しいでしょう。