サッポロビール 取締役執行役員経営企画部 広報部 改革推進部担当 改革推進部長の牧野成寿氏(撮影:酒井俊春)

 AIを採り入れた商品開発など、DX先進企業として知られるサッポロビール。その成果は「全社員DX人財化」を推進するボトムアップの人材教育施策と、その人材を経営課題に投入するトップダウン施策の組み合わせによって得られている。同社のDXを主導する牧野成寿氏は、「デジタルを目的としない」「最後は人が見る」を社内に徹底させる。その現在地を聞いた。

現場主導のシステム導入がもたらした混迷

――サッポログループの中期経営計画の重点施策の1つに「DX人財育成と活躍環境整備」を掲げています。DX推進におけるデジタル人材育成はどんな狙いがあるのでしょうか。

牧野 成寿/サッポロビール 取締役執行役員経営企画部 広報部 改革推進部担当 改革推進部長

1972年北海道生まれ。1996年サッポロビール入社後、業務用営業畑を進み、営業本部・人事部を経て、2013年営業支社長職に。2015年ベトナム子会社へ出向、同国内及びASEAN/OCEANIA 営業部門長、副社長。2017年サッポロホールディングス戦略企画部 企画 兼グローバル戦略グループリーダー。2020年新設の食品事業持ち株会社へ出向、2021年取締役経営企画部長を経て、2022年同子会社の代表取締役社長に就任。2023年サッポロビール取締役執行役員に就任し、現在に至る。

牧野成寿氏(以下・敬称略) サッポログループの祖業であり中核企業のサッポロビールでは、私が役員に着任する前の2018年から、全社的なBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)に着手してきました。

 当社は製造業ですので、原料を仕入れて製造して、注文を受けて、運んで、お代金をいただくというバリューチェーンの高度化が、いつの時代も最大のテーマになります。常に時代の最先端の技術を現場に注ぎ込み、磨き込むことで、生産性を最大化してきたのです。

 しかし、その現場が今、さまざまな課題に直面しています。その大きな原因は現場主導による「個別最適」のシステムが乱立してしまったことです。BPRによって年間36万時間の工数削減ができたことは成果だと思いますが、それでもなお、システムが各事業部で分散して運用されている状況は変わりません。

 数えてみると、社内に300を超えるシステムが稼働していることが分かりました。その中には新しく加えたクラウドアプリケーションもあったり、稼働年数が10年を超える基盤のシステムが存在したりするなど、さまざまなものが混在しています。

 問題は、これらのシステムのほとんどが、各事業部門と外部のシステム事業者との協業で作られたものだということです。そのため、外部のパートナーに委託して開発した部分は詳細が分からず、今後必要になる各システム間の連携を含めた全体像が掴みきれていません。また、管理体制が属人化しているため、日々の業務に追われて後任管理者の任命が進まずに、将来的に管理が放置される恐れもあります。

 この状況は、当社だけでなく多くの企業が直面している課題だと考えています。すなわち「デジタル技術の導入が目的化したDX」が生んでしまった混迷です。

 そこで、私がBX(ビジネス変革)管掌役員の就任以降進めているのは、事業変革に即したデジタル技術の最適化です。それまで独立していたDXとBPRのグループをBXのグループに統合し、デジタルの最適利用に向けて再スタートを切りました。

 前置きが少し長くなりましたが、ツールありきでなく、ビジネス変革のツールとしてデジタルを活用するためには、社内でデジタルを理解することが不可欠です。それが全社DX戦略と、全社DX人財育成を同時に進めている理由です。