2024年夏、品薄で販売数を制限している「たいらや城東店」(宇都宮市)のコメ売り場
写真提供:下野新聞/共同通信イメージズ

 2024年夏の「米不足」は、食の在庫と流通の可視性の低さを露呈しました。食の安定供給をめぐり、今、改ざん耐性を持つ台帳技術――ブロックチェーンの活用が再評価されています。国内外の実装と研究成果を手掛かりに、実装の課題と可能性を考察します。

2024年「米不足騒動」が突きつけた食の脆弱性

 2024年夏、日本の食卓に大きな衝撃を与えたのが「米不足騒動」でした。記録的な猛暑と長雨が重なり収穫量は大幅に減少、在庫不足や流通の混乱も加わって、スーパーやコンビニの棚から米が消えたのです。SNSには「米が買えない」という声が溢れ、国民の主食が失われるという、近年では例のない不安が広がりました。

 行政と流通業者は緊急対応を迫られました。農林水産省は備蓄米を市場に放出し、商社は、米国産米を中心に輸入を拡大する動きを見せましたが、それでも消費者の不安を完全に解消するには至りませんでした。

 一連の事態が示したのは、わが国の米の需給調整システムが依然として脆弱(ぜいじゃく)であり、突発的な需給ショックに対して十分な機能を発揮できていないという厳然たる現実です。

 特に問題だったのは、在庫や流通経路の情報がリアルタイムに可視化されていなかったことです。「どこに、どれだけの米が残っているのか」を誰も正確に把握できない状況が、買い急ぎや不安心理を助長しました。もし、生産地から流通、在庫までの情報が改ざん不可能な形で共有されていれば、行政や小売は迅速に対策を打ち、消費者も冷静に行動できたはずです。

 ここで注目されるのがブロックチェーン技術です。従来は食品偽装防止の文脈で語られることが多かったこの技術が、実は食料安保や需給安定の基盤としても機能し得ることを、今回の騒動は示しました。