伊藤忠商事(以下、伊藤忠)は、2023年5月に「生成AIラボ」を立ち上げると、2カ月後に同社オリジナルの社内向け生成AIサービスをリリース。従業員の業務ツールとして社内展開した。その後もこのサービスは機能拡張を続け、今後はグループ会社への展開も予定している。伊藤忠の多くの社内システムの中でも「珍しいほどのアジャイル開発」だという。なぜ生成AIをこれまでにないスピードで社内展開しているのか。生成AIラボを率いる伊藤忠のメンバーに取材した。
社員が生成AIの構造を理解しなければ、ビジネスは生まれない
2023年5月に設立された「生成AIラボ」。その目的の一つは、伊藤忠の全社員が生成AIを自由に活用できる環境を整備し、日常業務の生産性を向上することだ。
ただし、ラボ設立の目的は“今の業務を良くする”ことだけではない。本当の狙いはその先にあるという。情報・金融カンパニー 情報・通信部門 情報産業ビジネス部長の関川潔氏が説明する。
「私たちが見据えているのは、生成AIによる新規事業開発やビジネスモデルの変革です。そのためには、まず伊藤忠社員が生成AIを業務で活用し、この技術の本質的な構造やカラクリ、勘所を押さえる必要があります。だからこそラボを設立し、全社員が生成AIを使える環境を急ピッチで整えてきました」
ラボを統括するのは2つの組織で、1つは関川氏の所属する「情報産業ビジネス部」だ。同社の中でIT・情報系分野のビジネス、投資を行うフロントサイドの部門となる。そしてもう1つが「IT・デジタル戦略部」である。こちらはいわゆるバックオフィスの情報システム部門となる。
IT・デジタル戦略部長の浦上善一郎氏は、この組織体制を取った経緯を次のように述べる。「もともと2つの部門で一緒に活動することが多く、過去にもDXを推進する組織を両部が連携して立ち上げた歴史もあります。私たちの考え方は、フロントサイドのIT部門とバックオフィスの情シス部門がお互いの知見を還元し合うことです。今回のラボも、そのような狙いから2つの部がオーナーとなりました」。なおこのラボは、同社の出資先企業との共同設立となっている。
同ラボは設立2カ月後には、社内向け生成AIサービス「I-Colleague」を内製してリリースした。マイクロソフトの「Azure OpenAI」を活用し、社内限定とすることでセキュリティを確保している。サービス名に「Colleague(同僚)」という言葉を入れたのは、「社員の仕事を手助けする“同僚のAI”という意味を込めたため」(ラボの一員である情報産業ビジネス部の鳥内將希氏)だという。