元アマゾンジャパン顧問・渉外本部長、アナリーゼ 代表 渡辺弘美氏(撮影:木賣美紀)元アマゾンジャパン顧問・渉外本部長、アナリーゼ 代表 渡辺弘美氏(撮影:木賣美紀)

 欧米を中心として、ビッグテック企業への反発を意味する「テックラッシュ」が相次いでいる。その中身は、テクノロジーの負の側面への非難から事実に基づかない批判や風評などまでさまざまだ。そうしたテックラッシュの逆風に対して「ロビイスト」の立場から対処してきた元アマゾンジャパン顧問・渉外本部長の渡辺弘美氏が2024年1月、書籍『テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法』(中央公論新社)を出版した。知られざるロビイストの役割や、ロビイングの実例について、同氏に話を聞いた。

■【前編】アマゾンはこうして省庁を動かした 前例なき「置き配」を実現した交渉術とは(今回)
■【後編】「日本のユニコーン企業を潰す気ですか」業界結束で法案止めたアマゾンの戦術

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政府・省庁関係者の認識や行動を「補正」する

──著書『テックラッシュ戦記』では、アマゾンの重要業務を担う謎多き存在として「ロビイスト」を紹介し、渡辺さんが取り組まれてきた業務について解説しています。そもそもロビイストは、どのような役割を担っているのでしょうか。

渡辺弘美 / 元アマゾンジャパン顧問・渉外本部長、アナリーゼ 代表

元アマゾンジャパン合同会社顧問・渉外本部長。世界中のAmazonで最古参のロビイスト。東京工業大学物理学科卒業後、1987年通商産業省(現・経済産業省)に入省し長年にわたりIT政策に従事。2004年から3年間日本貿易振興機構(ジェトロ)及び情報処理推進機構(IPA)ニューヨークセンターでIT分野の調査を担当。当時、インターネット、ITサービス、セキュリティ分野などの動向を毎月まとめた「ニューヨークだより」を発信し、日経ビジネスオンラインで「渡辺弘美のIT時評」を連載。2008年にAmazonに転職。15年間にわたり日本における公共政策の責任者を務めた。24年に公共政策業務をアップグレードするアナリーゼを設立し代表に就任。著書に『ウェブを変える10の破壊的トレンド』(ソフトバンククリエイティブ)、共著に『セカンドライフ創世記』(インプレス)がある。

渡辺弘美氏(以下敬称略) ロビイストとは、ホテルなどのロビーで議員を待ち伏せし、政府の政策に何らかの影響を及ぼすように働き掛ける人というのが語源です。企業・団体のミッションを達成するために政府関係者に接触して、彼らの認識や行動を望ましい方向に補正することが役割です。

 日本人がロビイストに対して抱くイメージというと、時代劇に出てくる悪代官に袖の下を渡す商人のような、ネガティブなものかもしれません。しかし、それは実態とは異なります。例えば、アマゾンのロビイストは政府や省庁の方々に正しい情報提供を行い、公共の利益となるように働き掛けています。

 政府や省庁には優秀な方々が多くいらっしゃいます。しかし、日々業務に忙殺されていますし、知見が不足している分野も存在します。だからこそ、ロビイストが正しい情報提供を行うことは、政府や省庁のみならず、民間企業、消費者にもメリットをもたらすと考えています。

──著書のタイトルにある「テックラッシュ」は耳慣れない言葉ですが、ロビイストとはどのように関係するのでしょうか。

渡辺 昨今、欧米ではテック企業に対するさまざまな反発が巻き起こっています。これが「テックラッシュ」と呼ばれるものです。誤解に基づく批判もあれば、事実に基づかない風評もあります。これらが生まれる背景にあるのは、メディアや一般消費者がテクノロジー企業に対して抱くさまざまな不安や不信です。

 こうしたテックラッシュの逆風の中で、重要な役割を担うのがロビイストです。例えば、欧州を中心にアマゾンに対して「物流センターのワーカーや配達ドライバーに過酷な労働を強いているのではないか」「巨大な売り上げがありながら、納税を回避しているのではないか」などと批判する声が散見されました。

 このようなエビデンスに基づかない反発があれば、ロビイストが政府に対して事実に基づいた情報をお伝えすることで、企業や商品サービスについて正しく理解していただけるように努めるのです。