「職場がゆるくて、成長実感がないから辞めます」。これまでの育て方が通用せず、会社を離れようとする若手社員に、上司はどう向き合えばいいのか?本連載は、リクルートワークス研究所の主任研究員が、独自調査を通じてZ世代の実像に迫り、効果的な育成ポイントを解説した『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(古屋星斗著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。若手社員の定着・育成のヒントを探る。
第5回は、若手が「小さな第一歩」を踏み出しやすくするためにマネジャーができる工夫について解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 超大手企業の花形部門で働く20代社員が発した「離れ小島」の意味とは?
■第2回 総合電機メーカー入社3年目の若手が、副業先の地方企業で得た手ごたえとは?
■第3回 調査で判明、育成上手のマネジャーになるための「黄金ルート」とは?
■第4回 マネジャー歴10年、大手企業社員が気づいた、若手育成の重要なヒントとは?
■第5回 若手に「小さな行動」を促すのが上手いマネジャーの「口癖」とは?(本稿)
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①“言い訳”の提供
若手と向き合っていてこんなジレンマを感じたことがないだろうか。
何らかの行動をすることにはコストとリスクが伴う。もちろん、行動にはリターンもあって、本書でも触れてきたとおり「やったもん勝ち」に近いような利益がキャリア形成における行動にはあるのだが、それを実感できるのは行動したことがある人だけなので、最初の一歩目を踏み出したことがない人には何と言っても伝わることはない。
このジレンマだ。やればわかるし、まずはやってみようよと言うのだが伝わらない。なぜ伝わらないのか。それは行動したことがある人から見た視点に過ぎないからだ。
ここで筆者の反省の話をしたい。筆者は若手社会人のキャリア形成の研究も専門にしており、若手に対して「スモールステップ」(小さな行動)の重要性を提唱している。
現在耳目(じもく)を集めるような大きなアクションをしている社会人は、過去にスモールステップと呼ばれる小さな行動の頻度が高かったことがわかっているためだ。
スモールステップとして観測されているのは、例えば「やりたいことを話す」「友達に誘われたイベント等に行く」「LINE等で目的に合わせたグループをつくる」など。
その特徴は、行っても誰かに自慢できない(承認欲求は満たされない)が、特に自律的に行うことは求められず、リスクフリーで行え、目標が明確でないときでも目標が明確になった後に役に立つ準備運動のような行動であった。
スモールステップを検証し提唱した背景には、まさに「『まずやってみようよ』のハードルが、やったことがない人には高い問題」があった。人の行動とはどう起こるのか。
皆、マインドセットの話をするがマインドセットを変えることほど難しいことはないわけで、マインドセットを変えるような小さな行動が、第一歩なのではないかと考えたのだ。
筆者の論文ではまさにこの小さな行動がマインドセット(専門用語だがポジティブ・フレーミングと呼ばれるもの)に影響を与えていることが示唆される。
しかし、スモールステップの話をしていると、今度は次のような質問が若手からたくさん寄せられるようになった。