賃貸住宅やホテルなどの不動産をデジタル証券化して個人向けに販売する資産運用サービス「ALTERNA(オルタナ)」が注目を集めている。大きな特色は、個人が不動産などの資産を裏付けとするデジタル証券を手軽に購入できることだ。同サービスを提供するのは三井物産傘下の三井物産デジタル・アセットマネジメント。ブロックチェーン(分散型台帳)基盤には三菱UFJ信託銀行から生まれた「Progmat(プログマ)」が採用された。ALTERNAが誕生した背景や将来展望などについて、三井物産デジタル・アセットマネジメント代表取締役社長の上野貴司氏、同取締役の丸野宏之氏、Progmat CEOの齊藤達哉氏が話し合った。

シリーズ「フォーカス 変革の舞台裏 ~Progmat(プログマ)編~」
第1回 ついに始動、世界を目指す日本発デジタルアセットプラットフォームProgmat
第2回 「法律は敵ではなく味方」、既存の金融を新たな世界に導くProgmatの挑戦
第3回 大手金融機関の系列を超えた前代未聞のプロジェクトはいかにして実現したのか
■第4回 三井物産グループがProgmatとの協業で拓く個人向け資産運用サービスの新市場(本稿)

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個人がスマホで実物資産に投資できるサービスALTERNA

 三井物産デジタル・アセットマネジメント(以下、MDM)は2023年7月、同社が提供するデジタル証券(セキュリティトークン)を活用した資産運用サービスALTERNAにおいて、個人を対象に京都市内のホテル不動産への投資を募集した。募集開始から1カ月ほどで約11.6億円の募集を終了し、ファンド運用を開始したという。

 同社はすでにALTERNAにおいて東京・日本橋人形町の賃貸住宅をデジタル証券化して販売しており、京都のホテルは第2号案件にあたる。ALTERNAでは、個人投資家はいずれも1口10万円から投資することができ、デジタル証券の口数に応じて賃料収入等をもとにした配当を受け取ることができる。

 MDM代表取締役社長の上野貴司氏は、ALTERNA開発の狙いについて次のように語る。

「日本の個人金融資産は約2000兆円と言われていますが、その半分以上が現預金を占め、あまり生かされていません。政府も『貯蓄から投資へ』をスローガンに掲げていますが、その一方で、個人投資家が欲しいと思うような商品が少ないという課題がありました」

三井物産デジタル・アセットマネジメント 代表取締役社長の上野貴司氏(撮影:宮崎訓幸)


 現状は、株式やFX(外国為替証拠金)取引のように流動性はあってもリスクの大きい商品か、逆に預貯金や債券などのようにリスクは小さいがリターンも少ないというもののように極端だという。その中間となるミドルリスク・ミドルリターンの商品が抜けているのだ。

「機関投資家であれば特定の物件に対して数百億円という単位で投資ができますが、個人はできません。そこに道を開きたいと考えました」と上野氏。サービス名のALTERNAには預金や上場株式・投資信託、債券など伝統的な資産の代替資産(オルナタティブ資産)となるものを提供したい、そして投資の新しい選択肢を提示したいという思いが込められているという。

 ところで、不動産に小口で投資するというとREIT(不動産投資信託)をイメージする人がいるかもしれない。これについて上野氏は「REITは複数の物件に分散投資を行いますが、ALTERNAは1つの物件で1商品です。何に投資しているかも分かりますし、物件への思い入れも強くなるでしょう」と話す。

 さらにALTERNAは、口座開設から資産運用、納税手続きまでスマートフォンで完結するのも大きな特徴だ。最短5分で口座開設が可能で、口座開設の審査が完了し投資用資金を入金すれば最短即日で案件への申し込みができるという。

ブロックチェーン基盤にはProgmatを採用

 MDMは2020年4月に設立され、現在、三井物産(53%)、LayerX(35%)、SMBC日興証券(5%)、三井住友信託銀行(5%)、JA三井リース(1%)、イデラキャピタルマネジメント(1%)などの出資を受けている(※( )内は出資比率)。

 三井物産は不動産だけでなく、物流施設、プラント、船舶、航空機などさまざまな資産に長年にわたり投資してきたアセットマネジメントの実績がある。リースや与信、決済、SPC(特別目的会社)の設立・運営、M&A(合併・買収)など金融のノウハウも豊富だ。

「ただし、個人向け金融商品の開発経験は少なく、中でもファンドの組成・運用から販売までを一貫して自社で行うのは初めてです。スピードが要求される中、自社だけで全てを賄うのは現実的ではありません。餅は餅屋ではないですけれども、各分野の専門的なパートナーと一緒にやっていく方が賢明だと考えました」と上野氏は振り返る。

 MDMの出資者のうち、三井物産に次いで出資比率が高いのが、請求書処理など企業のデジタル化支援を行うスタートアップのLayerXだ。MDM 取締役の丸野宏之氏はLayerXの執行役員も兼任している。丸野氏は大手総合商社とスタートアップのジョイントベンチャーが実現した経緯を次のように語る。

「LayerXはもともとブロックチェーン技術をベースとしたサービス開発を祖業として生まれました。その後はデジタルテクノロジーを活用し、企業のさまざまな業務を効率化する事業へとシフトしてきました。当社の創業当初はProgmatのプロジェクトがまだ初期のころでしたが、当時から齊藤さんとは面識がありました。インフラレイヤーとしての基盤は、Progmatが構築しつつあったのですが、残念ながらそのインフラの上に載るコンテンツの開発をリスクを取ってやるような会社がなかったのです。その課題意識をずっと持っていたところ、上野さんと意気投合し、MDMがスタートしました」

三井物産デジタル・アセットマネジメント 取締役の丸野宏之氏

 LayerXのテクノロジーはMDMが運用するファンドにおけるさまざまな業務のデジタル化、効率化に生かされ、それにより手数料の削減なども実現しているという。

 ブロックチェーン基盤にProgmatを採用した理由について、上野氏は次のように語る。

「一時、三井物産自身がProgmatのような立ち位置になることを考えたこともあります。スマホで言えば、OSのようなインフラレイヤーですね。しかし、われわれは商品サイドなので、上に載せるアプリケーション、すなわちどんなものに投資をするどんな商品を作るべきかという側のほうが力を発揮できるのではないかと考えたのです」