(左から) NTTドコモ代表取締役副社長の前田義晃氏、NTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏、マネックスグループ代表執行役会長の松本大氏、マネックスグループ代表執行役社長CEOの清明祐子氏

 5大ネット証券の一つマネックス証券が、NTTドコモの連結子会社となることが決まった。これまでマネックス証券は各所とさまざまな提携を行ってきたが、独立系のネット証券という立場は保ってきた。今回、ドコモの資本を受け入れることでドコモ経済圏に組み込まれることになる。

 現在、国内の消費者向け金融サービスは、通信・決済・ポイントを軸に、銀行・証券・クレジットカードも加えて経済圏化してきている。各経済圏は、いわば壮大な囲い込みを行い、グループの総力をあげてユーザーの争奪戦を続けている状況だ。現在の各経済圏がどんな状況にあるのか、またマネックス証券のドコモ経済圏入りで勢力図にどんな変化が起きそうなのかを探ってみよう。

証券出遅れのドコモ、マネックスを傘下に収めPayPayとauを一気に抜き去る

 現在の経済圏はいずれも通信キャリアを軸に再編されつつある。その背景には稼げなくなった携帯事業がある。国内の携帯電話契約はすでに飽和し、乗り換え以外の新規契約が見込めない。また今後の人口減も見据えると、携帯契約者という膨大なユーザー基盤を活用して、次のビジネスを展開する必要があった。そこで昨今各社が注力しているのが金融だ。 

 今回、ドコモによるマネックス証券の連結子会社化で、情勢が大きく変化したのが証券だ。実は金融サービスの中で、今最もホットなのが証券になる。

 2024年から始まる新NISAは、これまで期間限定だった非課税期間が初めて恒久化される。さらに、投資可能額は年間360万円と、ほとんどの投資家にとって完結する額だ。一般の投資家にとって、いったん新NISA口座を開設したら、ほかの証券会社を利用する理由はほぼなくなる。さらにNISA口座の移行は手続きが大変だ。そんな背景から、証券サービスへの注目は一挙に高まっていた。

 各経済圏で最大規模の証券会社となるのが楽天証券だ。口座数は4月に単体で国内最多となる900万口座を超え、6月末には924万口座に達している。預り資産残高は23兆2061億円(9月末)だ。

 au経済圏のauカブコム証券は160万口座、預り資産残高は3兆3211億円と、2位につける。

 3位となるPayPay証券は、口座数52.5万口座(3月末)にとどまる。先行する各証券会社の規模は大きいが、6000万を超えるPayPayのユーザー基盤を武器に、PayPayブランドに変更後、2年間で口座数を3倍に増やした。ただし証券会社としてのサービスは限定的で、日本株、米国株の取扱数も限られ、投資信託の取り扱いも2021年に始めたばかり。現在のところは、PayPay頼みの成長となっている。

 そんな中、ドコモはSMBC日興証券との提携サービスだけで、本格的な証券サービスを提供できていなかった。NTTドコモの井伊社長は「政府の資産所得倍増プラン+新NISAでマネーライフが大きく変わっていく」と、マネックス証券子会社化の意図を話した。新NISAが始まるこのタイミングが、証券サービス本格参入のラストチャンスというわけだ。

 他方のマネックス証券も、新NISAとの向き合い方に苦慮してきた。業界トップのSBI証券は、このタイミングで日本株取引手数料の無料化を実施した。競合の楽天証券も追随し無料化を行ったが、マネックス証券は手数料有料を維持した。

「手数料無料化は、どう考えても赤字になる。どこかでその分を稼がなければならない。歪(いびつ)な状況が発生するのではないか」。9月4日に開催したマネックスグループの戦略発表会で、松本大会長はこのように話した。

マネックスグループ代表執行役会長の松本大氏 写真:共同
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 体力のある大手は、手数料を無料化しても耐え得る。しかし収益の約25%を日本株の売買手数料に依存するマネックス証券においては、証券事業が赤字に転落するほどのインパクトがある。一方で、口座数は222万口座(6月末)とほぼ横ばいだ。2年前から27万口座しか増えていない。

 こうした中で、5000万を超えるd払いなど、ドコモが持つユーザー基盤は魅力に映った。マネックス証券はドコモの連結子会社となるが、株式の51%をマネックスグループ側が保有し、名称もマネックス証券を維持。社長もマネックスの清明祐子氏が続投するなど、マネックスの独立性に配慮した条件だ。

 清明氏は今回の資本業務提携を「理念、哲学、思いを全て、巨人ドコモの基盤に乗せることができる」と表現した。ドコモにとってPayPay経済圏、au経済圏を、出遅れた証券分野で一気に抜き去る奇手であるとともに、マネックス側にとっても生き残りを賭した一手だったといえる。

マネックスグループ代表執行役社長CEOの清明祐子氏 写真:共同
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