「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」(二宮尊徳)。「SDGs」「ESG」「サステナビリティ」などの言葉が普及し、多くの企業で取り組むべき重要課題として受け止められるようになった。だが、自社の成長と、環境問題・社会問題の解決を両立させるイメージがつかめず、SDGsに関する目標などが“お飾り”になっている企業もあるのではないだろうか。
本連載では、サステナビリティのコンサルティングの第一人者である水上武彦氏が、ビジネスとサステナビリティを結びつけ、長期的に「儲かる」ものにするための経営やマーケティングの手法について、先進事例を交え、分かりやすく解き明かす。第2回は、SNSなどの発達によって、製品・サービスに対する多くの知識が広くシェアされる時代に、いかに消費者の心をつかみ、長期的な関係を築くかについて、マーケティングの大家フィリップ・コトラーのコンセプトをもとに解説する。
(*)当連載は『サステナビリティ SDGs以後の最重要生存戦略』(水上 武彦著/東京書籍)から一部を抜粋・再編集したものです。
本書の出版を記念して、
<連載ラインアップ>
■第1回 ポーター、ドラッカーに学ぶ、サステナビリティにおける企業の役割とは?
■第2回 なぜ今、コトラーの「マーケティング3.0」に再注目すべきなのか?(本稿)
■第3回 サステナビリティにも「イノベーションのジレンマ」が存在?
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コトラーとサステナビリティ経営
マーケティングの大家フィリップ・コトラーは、企業がマーケティングを通じて社会価値を創造するためのコンセプトを提唱している。「社会的責任のマーケティング」では、社会課題解決にマーケティングを応用するコンセプトを示している。具体的には、コーズ・プロモーション、コーズ・リレーテッド・マーケティング、ソーシャル・マーケティングだ(図1)(*2)。
*2 『社会的責任のマーケティング-「事業の成功」と「CSR」を両立する』、フィリップ・コトラー、ナンシー・リー、東洋経済新報社、2007年
コーズ・プロモーションは、特定の社会課題(=コーズ)に対する社会や消費者の関心を高めるために宣伝などを行うものだ。
コーズ・リレーテッド・マーケティングは、商品やサービスの販売などと社会課題への対応を関連付けるもので、商品やサービスの売上の一部を特定の社会課題解決に取り組むNGO/NPOに寄付するなどが典型的な活動だ。
ソーシャル・マーケティングは、社会課題解決に向けた行動変化に焦点を当て、特定の社会課題に関する行動変化のキャンペーンの企画や実施を支援するものだ。
また、コトラーは、製品志向のマーケティング1.0、顧客志向のマーケティング2.0に対し、社会志向のマーケティング3.0、自己実現志向のマーケティング4.0、テクノロジーの進化を反映したマーケティング5.0を提唱している。このうち、マーケティング3.0がサステナビリティ経営にとって重要な考え方だ(*3)。
*3『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』、フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン、朝日新聞出版、2010年