「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」(二宮尊徳)。「SDGs」「ESG」「サステナビリティ」などの言葉が普及し、多くの企業が取り組むべき重要課題として受け止めるようになった。だが、自社の成長と、環境問題・社会問題の解決を両立させるイメージがつかめず、SDGsに関する目標などが“お飾り”になっている企業もあるのではないだろうか。

 本連載では、サステナビリティのコンサルティングの第一人者である水上武彦氏が、ビジネスとサステナビリティを結びつけ、長期的に「儲かる」ものにするための経営やマーケティングの手法について、先進事例を交え、わかりやすく解き明かす。第1回は、サステナビリティを考える際に欠かせないビジネス環境やマネジメントの役割などについて、ポーターの経営コンセプトやドラッカーの言葉を引き合いに出しながら解説する。

(*)当連載は『サステナビリティ SDGs以後の最重要生存戦略』(水上 武彦著/東京書籍)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
■第1回 ポーター、ドラッカーに学ぶ、サステナビリティにおける企業の役割とは?(本稿)
第2回 なぜ今、コトラーの「マーケティング3.0」に再注目すべきなのか?
第3回 サステナビリティにも「イノベーションのジレンマ」が存在?


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ポーターとサステナビリティ経営

 マイケル・ポーターは、CSVの生みの親であり、ポーターのバリューチェーン、クラスターといった経営コンセプトが、CSVの土台となっている。

 CSVとは、Creating Shared Valueの略で、社会課題解決と企業価値向上を両立しようとする戦略コンセプトだ。日本語では、「共有価値の創造」または「共通価値の創造」と訳されている。ハーバード大学のマイケル・ポーター教授らが、競争戦略論のフレームワークを応用して体系化した。製品・サービス、バリューチェーン、クラスター(本書では、ビジネスエコシステムと呼ぶ)という3つのアプローチを基本とする。(CSVについては、書籍にて詳述)

 それ以外に、マイケル・ポーターは、1991年に、「適切に設計された環境規制が企業の効率化や技術革新を促し、規制を実施していない地域の企業よりも競争力の面で上回る可能性がある」という考え方(「ポーター仮説」)を提示している。

 ポーター仮説には反論も多いようだが、「適切に」設計された環境規制がイノベーションを促進するというのは、当然のように思う。その環境規制が他地域にも広がることで、イノベーションのマーケットが拡大すれば、イノベーションを生み出した企業にとって大きな収益をもたらす。

 この考えは、サステナビリティに関する規制・政策に広く適用可能で、ビジネスエコシステムのCSVの一つである「ルールメイキング」を仕掛けるときの、思想的土台となる。

ドラッカーとサステナビリティ経営

 ピーター・ドラッカーの経営思想には、サステナビリティ経営の考え方のベースとなるものが多い。

 企業は、なぜ、サステナビリティに取り組むのか? これは、企業がサステナビリティを推進するにあたり、まず問わなければならない質問だ。ドラッカーの答えは、以下のとおりだ(*1)

*1『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』P・F・ドラッカー、ダイヤモンド社、2001年

「企業にとって、社会との関係は自らの存立に関わる問題である。企業は社会と経済のなかに存在する。ところが企業の内部にあっては、自らがあたかも真空に独立して存在していると考えてしまう。事実マネジメントの多くも、自らの事業を内部から眺めている。

 しかし企業は、社会と経済のなかに存在する被創造物である。社会や経済は、いかなる企業をも一夜にして消滅させる力を持つ。企業は、社会や経済の許しがあって存在しているのであり、社会と経済が、その企業が有用かつ生産的な仕事をしていると見なすかぎりにおいて、その存続を許されているにすぎない。