東京電力エナジーパートナーのDX:顧客の期待を超える価値の提供を目指す

 東京電力パワーグリッドによって送配電された電力を主として一般家庭に販売するのが東京電力エナジーパートナーだ。従業員数は3100人と東京電力パワーグリッドの約7分の1だが、販売を担うだけあって売上高はグループで一番多い4兆3000億円に上る(21年度、連結)。

 東京電力エナジーパートナーのDX推進室は、20年4月に社長直下で発足した。社長直下とは、どこかの部署付属でなく直轄にしたいという「社長を含む経営トップの強い業務変革への気持ちの表れ」とDXストラテジーグループ チームリーダーの明石氏は言う。現在16人の専任者が、DX戦略の立案、人材育成、各部門とのDXプロジェクトの推進をメインに業務を進めている。

明石 真和/東京電力エナジーパートナー DX推進室 DXストラテジーグループ チームリーダー

2008年、東京電力千葉支店に入社し、法人営業部門で、契約業務・フロント営業・部内総括業務に従事。その後、東京電力エナジーパートナーの経営計画・KPI策定業務を経験し、2020年より同社DX推進室に所属。DX推進の方針策定および経営管理や電源調達のDXプロジェクトを担当。趣味は、ランニング、トレイルラン、お酒等。

 同社のDXの目的は顧客の期待を超える価値の提供だ。その推進に向けて、東京電力エナジーパートナーではレベル1、2、3と称する3つのステップを用意している。レベル1では守りのDXと位置付け、「内部業務の整流化」を行う。具体的にはデジタルを使った業務の効率化であり、省力化が中心だ。レベル2では、顧客のニーズを引き出した提案型のサービスを目指す。社内においては、データを生かしたスピード経営や意思決定を行う。レベル3は先に紹介した「新たなビジネスモデル」の構築だ。レベル3を同社では攻めのDXと位置付け、「他社や基幹事業会社などとのアライアンスも視野に入れ、事業創出を目指したい」(明石氏)としている。レベル1の内部業務効率化から3の他とのアライアンスでは大きな隔たりを感じるが、明石氏によれば「まずは小さく始めて、それを大きく育てていきたい」と説明。現在は、レベル1、2を中心に実践に努力している。

 その明石氏は取り組みの一つとして、電力に関する収支計画・見通し業務の効率化を紹介する。現状は、同社の販売部署が持っている販売量データと、そこにひもづく収入データ、調達側からの発電所の発電データ、そのための費用データといった各種データにより、1000シートを超えるようなエクセルファイルを利用している。しかし、これはあまりにも非効率、迅速に予測するには大量の人材と時間が必要だった。

 そこで、レベル1として、現在はデータ処理を効率的に行えるシステムの導入と、人が想定する需要予測(一般企業の販売量予測と同様)にAIを導入し、予測工程の効率化を目指している。ただ、電力利用の実測データには「例年より大幅に暑かった」といった季節要因がある。そこでAIによる予測では、こうした季節要因等を削除した上で、電力実測データをAI向けに用意するなど細かい配慮の上で最新技術を活用している。

 また、東京電力エナジーパートナー約2150万件の顧客向けのコールセンター業務でもDXによる効率化を進めている。具体的には、FAQにAI検索エンジンを付加して検索性の向上、チャットボットの利用、音声テキストによる自動対応など、顧客との接点をデジタルで強化した。こうした施策によって、顧客が検索しても何もヒットしない0件ヒットが従来の50%から約6%に減少、つまりFAQで処理できる応対が増えた。逆に有人による応対の件数は減少。また、チャットボットでは、AIとオペレーターによる対応により、丁寧な有人応対につながり、チャットボットを利用した顧客満足度が97%と大幅に上昇した。

 各所で結果が見えてきた同社のDXだが、これに満足せずDX推進室では、DX研修などを開催し、25年までに全社員2割のDX要員化を目指している。座学だけの研修ではなく、各部門で実際にDXプロジェクトに関わってもらい、実務での成功体験を目指している。この成功体験でDXのリアルなイメージを得て、それを各部署に持ち帰ってもらい、さらなる広がりにつなげたいと考えている。

(DXは)「小さく始めて、それを大きく育てていきたい」明石氏