エネルギーの小売事業から、DXを軸にエネルギーの最適利用を提案する「エネルギーソリューション事業」への転換を進める日本瓦斯(ニチガス)。多様な領域でDXを進めながら、AIによってコミュニティ全体のエネルギー利用を最適化する「スマートシティ構想NICIGAS 3.0」を目指している。2022年5月に代表権を返上するまで経営トップとして業界のDXをリードしてきた同社取締役会長の和田眞治氏に、その原動力やDX実装の要点などについて聞いた。
変革に挑戦しないことこそがリスク
――2005年に社長就任後、LP(液化石油)ガス事業者としての事業ドメインを大きく超える領域でデジタル技術の活用を進め、さまざまな挑戦を続けてこられました。2022年6月には経産省と東証が共催する「DX銘柄2022」においてニチガスがグランプリに選ばれています。こうした実績の原動力になっているものとは何でしょうか。
和田眞治氏(以下敬称略) 一つは、当社の成長を支える最前線の営業が効率的に動けるようにするためにデジタル技術はあるべきだという強い思いです。私は1977年の入社以来、営業一筋でしたが、当時のオフコン(オフィスコンピュータ)は使い勝手が悪く、見積書やプレゼン資料などの作成に多くの時間を費やしていました。現場では保安検査リストの項目をそのたびごとに保安検査用紙に書き写すようなことも。初めから印刷しておけば済む話ですよね。そうした現場の仕事とシステムのミスマッチで苦労した経験が、フルクラウド化などDXにいち早く取り組む動機となっています。
もう一つは、自社の事業がいつまでも続くものではないという危機感です。1986年ごろ、米ハワイのエネルギー会社を買収しないかという話が浮上したとき、米国市場について調べてみました。そこでわかったのはエネルギーの自由化が思いの外進んでいること。いずれ日本もガスと電気の垣根がなくなると確信しました。
そして最後は、変革に挑戦しないことこそリスクであると強く認識し、過去の成功体験を繰り返さず、失敗を恐れずに挑戦し続けるというカルチャーが根づいていることです。これが当社の成長の原動力になっていて、社内では「今まで通りを一生懸命やるのはリスクをとらない“なまけ癖”」と言われています。
当社は今、「NICIGAS 3.0」と呼ぶビジネスモデルへの変革に挑戦し、これまでのエネルギーの小売事業から、DXを軸にエネルギーの最適利用を提案する「エネルギーソリューション事業」への転換を進めています。ようやくWeb2.0からWeb3.0への移行が具体的に語られるようになり、リアル空間と仮想空間の経済圏が混在し始めました。当社の現在の立ち位置は、Web3.0時代のエネルギーソリューションを提供できる入口に立ったところといえるでしょう。