近年、右肩上がりに業績を拡大し続けているワークマン。そのきっかけとなったのが、アウトドアやスポーツ向け商品を取りそろえる「WORKMAN Plus」と、一般女性客向けの店舗として誕生した「#ワークマン女子」のブレークだ。作業服専門店という従来のイメージを大きく覆し、目を見張るような結果を生み出す端緒となったのは、「しない」こと。同社で専務取締役を務める土屋哲雄氏 に「しない経営」の極意を聞いた。

※本コンテンツは、2022年3月10日に開催されたJBpress/JDIR主催「第9回ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演2「著書『ホワイトフランチャイズ』より ワークマンは人の意欲を引き出しノルマと期限をなくして100年の競争優位をめざす」の内容を採録したものです(役職等は講演時点の情報です)。

地方の加盟店巡りで、ある家族との出会いが働き方に対する価値観を変えた

「#ワークマン女子」の仕掛け人であり、ワークマンで専務取締役の職責に当たる土屋哲雄氏。同社に入社する以前は三井物産に籍を置き、35歳で社内ベンチャー第1号として三井物産デジタルを設立、自ら社長を務めて電子機器の開発からコンサルティング部門の設立まで多くの分野で実績を収めてきた。その実績を引っ提げて2012年にワークマンへ入社したが、創業者から「優良会社だから何もしなくていい」と伝えられたという。この言葉を受けて土屋氏は「本当に何もしなかった」と当時を振り返る。

「何もせずに給料をもらえるなんて、こんなに良いことはないと喜びました。ただ、2014年にデータベースを導入した経営を始めたところ、当時圧倒的であった作業服の強さは、あと10年持たないだろうと感じました。何か新しいことを始めなければ天井にぶつかり、成長が止まってしまうという危機感を持ったのです」

 土屋氏が2014年に提示した「中期業態変革ビジョン」は、「計画ではなく緩い目標」として設定された。これには計画とうたわないことで、社全体に切迫感を与えない狙いがあったそうだ。さらに、このビジョンで示された目標は、「客層拡大」とい点のみ。達成までの時間の制約も設けていない。その代わり、必ず成し遂げようという信念があった。

 その結果、2018年に立ち上げたアウトドアウエアをそろえる「WORKMAN Plusららぽーと立川店」で一般客にアプローチし、その2年後には「#ワークマン女子」の1号店を横浜・桜木町駅前にオープンして、幅広い年代の女性客を取り込むことに成功した。2018年当時から女性のマーケットが男性のマーケットよりも2.5倍ほど大きいことを把握していたものの、「急いで進んではいけない。ゆっくり確実にやる」という同社の働き方を徹底したという。

 土屋氏は「何もしない間に自分が変わった」と語る。契機となったのは「坪根ファミリー」との出会いだ。

 ワークマンに入社後、営業担当者と一緒に地方の加盟店を巡っていたという同氏。長野県で親子2代にわたって店舗を経営する「坪根ファミリー」のもとに足を運んだ際に、加盟店には加盟店の暮らしがあることに気がついた。土屋氏は「かつて商社に勤めていたころは自分の名を上げたいという不純な動機で働いていた」と振り返る。そんな同氏にとっては、地方で1つの店舗を経営していくのは退屈なのではないかと想像していたが、坪根ファミリーと出会い、ハッとさせられた。

「とても幸せそうなご家族を見て『うらやましい』と感じました。そこで私の働き方に対する価値観に変革が起こったのです。これは『PX体験(PX=personal Transformation)』と言えるでしょう。われわれの目標は、業績を上げることよりも、店舗を娘さんや息子さんが継ぎ、家業にしてもらうことです。それを体現しているのが坪根ファミリーでした」