関東中心の法人と一般世帯約2900万軒に向け、約3万8000人の従業員を有して生活インフラの「電力」を提供するのが東京電力グループだ。電力システム改革によるライセンス制導入にあわせて2016年にホールディングカンパニー制の会社形態を導入。持ち株会社の東京電力ホールディングス、燃料・火力発電事業会社の東京電力フュエル&パワー、送配電事業会社の東京電力パワーグリッド、小売電気事業会社の東京電力エナジーパートナー、20年には再生可能エネルギー発電事業会社の東京電力リニューアブルパワーと持ち株会社および4つの基幹事業会社に分社。昨今は脱炭素社会に向けて、火力発電を削減する動きや再生可能エネルギーの利用を増やせという声は多い。11年以降、ジェットコースターのように周囲の環境が変わる中、DXを目指す3社の取り組みを聞いた。

東京電力グループ3社が目指すDXとは

 東京電力は現在、持ち株会社と4つの基幹事業会社の計5つの会社でグループを構成している。今回は、発電所からの電力を利用者にまで届ける送電・配電の電力網を維持し、安定した電力提供を目的とする「東京電力パワーグリッド」、提供された電力を、利用する一般家庭や工場等に販売する「東京電力エナジーパートナー」、今後、脱炭素に向けて活用が期待されている再生可能エネルギーの事業領域拡大を目指す「東京電力リニューアブルパワー」の3社に登場いただいた。

 長らく、電力は発電所から利用先まで完全に一方通行だったが、今は家庭に太陽光発電を設置して、それを売るといったことも可能となった。また、風が吹かないと発電できない風力発電などの不安定な再生可能エネルギー発電も、電力の供給者として電力網に参加している。こうした複雑な状況下で、安定、安心の電力を届けることは、昔と比較にならないほど難しい業務と言えるだろう。

東京電力パワーグリッドのDX:再エネ活用に向けた新たな送配電構築をデジタルで

 発電所から変電所までの送電と変電所から工場や各家庭までの配電を担うのが東京電力パワーグリッドだ。グループで一番の約2万人を有する同社のDX推進は、技術・業務革新推進室内のDX推進グループ約40人が担当している。今回はリーダーの大木氏に活動について聞いた。

大木 靖之/東京電力パワーグリッド 技術・業務革新推進室 DX推進グループ 企画・運営チームリーダー

1999年、東京電力千葉支店に入社し、配電設備の保守業務に従事。その後、配電部門のITシステム保守や東京電力パワーグリッドのITシステム計画策定などに携わったのち、2019年より現職。DX戦略策定(カーボンニュートラルに貢献する系統設備構築、部門横断での生産性向上施策展開等)を担当。趣味はゲーム、カラオケ、旅行、休日の長距離散歩(2万歩以上)等。

「16年のホールディングカンパニー制導入以降、東京電力パワーグリッドは関東中心に送配電事業を担ってきましたが、さらなる生産性向上やコストダウンといった企業体質の強靭化にはデジタルの力が必要と感じてきました」と大木氏は語り、今後、再生可能エネルギーが主力となった場合、既存の送配電設備の運用ルール変更や増強が必要という想定から、デジタルによる送配電の高度化が必要と言う。高度化には、各所データを、部門を超えて容易に収集、分析、活用できるデータ基盤も急務と説明。そのため、同社では18年からDX基本構想を練り、20年にDX基本方針を社として制定した。

 DX基本方針では、30年までに再生可能エネルギーの大量導入や人口減少といった変化に対応できる、あるべき姿を部門横断で検討し、取り組みの優先順位を付け、それを進めると制定。ユニークなところはDXまでの道のりを「Digital Patch」「Digital Integration」「Digital Transformation」と3段階に設定しているところだ。

 最初の「Digital Patch」は部門内のカイゼンを指す。既存の業務プロセスを単一デジタルツールなどで改善する。次の「Digital Integration」は、部門を超えグループを横断しての変革を目指す。例えば、顧客から配電の不具合を通報されたときに、顧客ニーズの把握、対応方法の決定、現地での対応が必要だが、これらは今まで部門ごとに対応していた。そこで、デジタルの力で部門業務を統合(Integration)し、一気通貫で行えるようにする。最後は本丸の「Digital Transformation」だが、これは業務の統合を社外にも広げ、需要家や社会に対しインパクトのある新しい価値の創出を目指すもの。

 現在は「Digital Integrationを念頭に動いている」(大木氏)ということで、ここでは事例として再生可能エネルギーに対応するための送電線管理を紹介したい。

 再生可能エネルギーは今後期待されるエネルギーだが、出力があまり安定せず大きく変動するという課題がある。再生可能エネルギーを際限なく電力網に接続し続けると、電線の許容量を超え、最悪の場合、電線が溶けるなどのリスクがある。そのため、従来は最も過酷な条件を想定し、電線容量を設定していたが、時間帯別、温度別といった形で細かく確認し、設備をいたずらに増強しなくとも、再生可能エネルギーの接続量を増加させることを目指している。保守と再生可能エネルギー発電をつないだ、新しい高度な取り組みだ。

 こうした送配電網全般に渡る大規模なDXを実践するには、従業員へのDX意識の浸透も重要だ。ただ、従業員数が多いので、大木氏はここでも一工夫をこらして社内への浸透を図っている。

「全社浸透に関しては、ペーパーだけだと分かりづらいよねという声もあり、21年度から、各事業所の改善担当者約800人強を、ウェブ会議で毎月集めて会議を開催しています」と大木氏は説明する。会議ではデジタルリテラシーや会社の取り組みの紹介、現場から課題の提案や質問などを受けている。こうして東電DXの意図をしっかりくんだ約800人が、現場に戻って活動の浸透を図っていくというシステムを運営している。

「再生可能エネルギー活用にデジタルは欠かせない」(大木氏)