向き合う先に顧客はいるのか
「常にお客さまのために時間を使って向き合うことが大切」と話す理由は、リュウ氏がジョンソン・エンド・ジョンソンに所属していた時のエピソードからもうかがい知れる。
リュウ氏は、香港支社のカントリーマネージャーに就任した直後、現地のバイヤーから自社製品が歓迎されていないことを知った。そこで、自ら店舗へ足を運んでみると、商品が粗雑に並べられている事実を目にした。これでは消費者の購買意欲にはつながらないと考えたリュウ氏は、60人ほどいる従業員全員に100ドルを渡して外で買い物をさせたのだ。
「業績が向上しない原因は、オフィスで必死に数字と向き合っていたからです。売場や顧客に目を向けていなかった。自社商品の現実を見た従業員は、活発に改善アイデアを出すようになりました」とリュウ氏。顧客に重点を置いたことで、業績は急速に向上したという。
リュウ氏は同様のことを現在も実践している。「お客さまへ直接お聞きすることで、いくつもの気付きを得ることができます。これはオンラインも同様です。常にマーケットへ目を向けて、自分が顧客体験をすることも忘れてはいけない」と語る。
デジタルの時代だからこそ改めて人と向き合う
サードパーティークッキーのトラッキング規制は、人と向き合うマーケティングに立ち返る良いきっかけになったとリュウ氏は話す。
「デジタルの進化で、細かなKPIの数字ばかりを追う風潮が強くなりました。パフォーマンスばかりを重視していると、数値と顧客体験の乖離が広がります。クッキー規制が強化されつつある今、どう人間(顧客)を見るかを考える良いタイミングではないでしょうか」(リュウ氏)
コロナ禍で購買行動が大きく変わった現在、特にフォーカスすべきは、情報のバリアを乗り越えられず、自らオンラインでの購買ができなかった人だ。「オンラインでもオフラインのように個々に寄り添うサポートと、ユーザビリティの高いプラットフォームへの改善は必須です。その他にもリアルタイムで質問にお答えするライブコマースなども検討しています」と話す。
こうした方向性は当たり前のように聞こえるかもしれないが、実現できるかどうかはその企業の持つマーケティング力やテクノロジー力に左右される。同じ回転寿司の企業でもコロナ禍で明暗を分けたケースもある。違いはチャンスの生かし方だ。そのためにも顧客を見たマーケティング活動が必要だとリュウ氏は今後を見据えている。ビジネスチャンスは人間中心のマーケティング、CXにあるのだ。