チームの枠を超えるCXへの取り組み
同社のCXに対する取り組みの一つに、「CX Week」という全社員参加型の大きなイベントがある。ここでは、なぜCXが大切なのか、顧客ロイヤリティ指標の推移、各部署のCXの取り組みや進捗を話し合うなど、CXを前面に押し出した議論を深め、その後のビジネスに各々が生かしている。全社を挙げて知見や認識の向上を測る重要なイベントだ。
加えて、人事評価にCX項目があるのも特徴的だ。常に顧客を考えるきっかけとして、個人KPIフォーマットの約半分がCX関連の内容となっている。奇麗事で言うのではなく、自分の評価に直結するからこそ考えるきっかが生まれ、より意識が高まっていくのだ。そして、部署にもCXのKPIが設定され、業務の流れの中にCXが織り込まれている。
この仕組みで創出された数々のアイデアは、常に部署の垣根を越えて議論されている。CXは共通言語化されているが、それぞれ見るお客さまと観点は違う。その視点の違いがイノベーションの源泉となるケースがたくさんあるのだ。例えば、ある開発部隊の「新しいPCコンセプトを考える会」に違うグループのマーケティングメンバーも含めた多くの有志が参加し、良い議論が展開されたとリュウ氏は話す。これも同社のユニークなカルチャーの一つだと言えるだろう。
これらの意識の変化は、同社の看板モデル「ThinkPad」を中心としたノートPCが、日経コンピュータ顧客満足度調査2021―2022で1位に輝く結果に表れたと言える。「性能・機能」「コスト」「運用性」など、向上した評価のバランスもとてもよい。
「これはユーザビリティの表れでCXの取り組みがなければ達成できなかったことです。お客さまはパソコンが買いたいわけではなく、課題を解決して目的を達成するためにパソコンを利用します。そのニーズに応えるためには、トータルな顧客体験を提供しなければなりません」とリュウ氏は語る。
顧客の課題解決へ直結する接点がオンラインへとシフトする変化は、近年とても激しかった。同社グループ内も顧客体験の見直しが急務とされているが、リュウ氏はその際に必要な視点の一つに、「日本の接客業の素晴らしさと、販売員のレベルの高さ」を挙げた。
「インテルとの共同調査で、自らの知識でパソコンを選択できる日本の消費者は、世界で最低ランクだと分かりました。これからは、オフラインの顧客体験をオンラインで再現性高く提供していけるかが課題」とリュウ氏は話す。
そして、そのためにも「人」にフォーカスした取り組みに立ち返る必要があると強く語る。